第43話 計画は踊る

 契約を交わした夜…。


「それで御前試合の戦い方だけど…。そもそもこの国の大公家ってのは後を継ぐための儀式とかってないのかな?なんとかの秘宝を手にしたものに大公の座を授けるとかなんとかとか…?」


 プレスはトーマス、サファイア、ガーネットにそう問いかけた。


「現在はそういった慣習はありません。ただ古い伝説ではハプスクラインのダンジョンの最下層にこの土地を治める者であることを証明する宝玉があると言われています」


「そんなものがダンジョンに?」


「はい。かつては継承の儀式と呼ばれ皇太子がその実力を示すためダンジョンに挑戦したと伝わっています。しかし実際に宝玉を手にしたという話は伝わっていません。五代前の大公がその状況を鑑み儀式その物を継承の条件から外したとされています。また近年その儀式を受けるために必要な王家の秘宝が盗難にあってしまい挑戦が不可能なものとなっていました。しかし最近になって王家の秘宝が取り戻されました。そうなるとこの儀式を行うことは可能ということになるかと思います」


「王家の秘宝?」


「冒険者プレストンが取り戻した破邪の首飾りです」


「ナ、ナルホド…」


 プレストンが微妙な顔をする。最早、取り戻したのが自分であるというのも恥ずかしい。薄々は彼等も気づいているのだろう。プレスは無視することにした。


「プレス殿。私も聞いたことがある。かつては騎士団の特に優秀な者を引き連れてダンジョンに挑んだらしい。皇太子からその騎士に選ばれることは非常に名誉なこととされていたようだ。現在冒険者達が潜っている層よりさらに下に魔法で隔離された深層があるらしい。破邪の首飾りを持ったパーティのみがその深層に臨めたとか…。しかし初心者向けとされるこのダンジョンにおいて宝玉のあると言われるダンジョン最下層への道は厳しくこれまで挑戦した全員が命を落としたとか…」


 トーマスとサファイアの話を聞きプレスは一つの光明を見出す。


「だったらその兄弟で協力して宝玉を手に入れればいいんじゃないかな?おれが手伝うよ!」


「プレスさん?」

「プレス殿?」

「…?」


 何と言ってよいのか分からない…といった表情を浮かべる三人。そんな三人を前にプレスはいつもの表情で語り始める。


「これまで達成できなかったと言われる継承の儀式…。それが達成できたとあっては誰も文句はつけられない。弟の補佐の下、兄が伝説の宝玉を手に入れる。見事な英雄譚の誕生ってやつじゃない?きっとトムが大公を継ぐことが決定的になる。ユスティ殿下も誰に文句も言われずにトムの補佐役として側にいることが出来るし、第二夫人もまさかその偉業を覆すことはできないだろう?」


 簡単そうに言うプレスに向かってサファイアが答える。

「プレス殿!確かにそうかもしれぬが、生存者がおらぬのだ。宝玉があるかどうかも分からない伝説なのだぞ!そもそも殿下がダンジョンに入ることが許されるとも思えん!」


「宝玉があるかどうかは分からないけど…。もしなかったとしてもトムがユスティのことも考えて、互いに協力して古の伝説に果敢に挑戦したという事実はきっとトムの器が大きいってことで民衆の心に響くはずさ。ま、もし宝玉がなくてもダンジョンで一番高価そうなお宝を見つけてこれが宝玉だ!って言ってしまう方法も無いわけではないからね~」


「そ、それは流石にどうかと思いますが…」


 ガーネットも冷や汗をかいている。


 その時、複雑な表情をしたトーマスが口を開いた。


「プレスさん。荒唐無稽かとも思いましたが、もし私にそんなことが可能であるなら…私は挑戦したいと思います。現在の状況をどうにか変えていきたいと私は思っています。母が元気だったあの頃のように兄弟で仲良く暮らしたいのです」


 そんなトーマスを見てプレスは頷く。将来この若者は名君と謳われるのだろう…そんなことをプレスは思った。このまま真っ直ぐに成長してほしいものだ…と。そしてそれを助けたいと感じていた。


 トーマスの言葉を聞きサファイアも同意を示す。


「殿下がそこまでのお覚悟なら私も異論はございません。当然私も同行させて頂きます。しかしどのようにダンジョンに潜るおつもりですか?それもユスティ殿下もご一緒に…?プレス殿?何か策があるのというのか?」


 プレスは少しだけ悪い笑みを浮かべていた。


「宝玉の話を聞いて計画が浮かんだよ。おれは御前試合で劣勢を装う。その上で相手の奥の手を使わせるほどの熱戦を繰り広げて薄氷を踏むかのような勝利を得ようと思う」


「プレス殿?そんなことが可能なのか?そしてそれがどのようにダンジョンに潜ることにつながるのだ?」


 サファイアは信じられないような顔と怪訝な顔を併せたような複雑な表情をしている。


「街に滞在していた時、相手のプレストンには会ったからね。あれくらいなら大丈夫。なんとかなるよ。そして脚本はね…」


 熱戦が繰り広げられたと言えるが、試合内容はA級冒険者で勇者候補のプレストンが引退した元C級冒険者シングルトンを終始攻めて立てていた。

 そんな状況の中、結果としては試合が最高潮に達したところで何かに足をすくわれる形でバランスを崩したプレストンが負けてしまう。まさに薄氷を踏むかのような勝利ではあるが勝利は勝利である。

 トーマスの人を見る目が確かなことは民衆に知れ渡るし大公の継承争いに関しては大きなアドバンテージを得たと言ってよい。

 しかし第二夫人のシーラルはそれでは納まらない。運が悪かっただけで本来は勝てた試合であったと思うはず。恐らく納得がいかないから再試合などを提案するはずだ。大公はそのシーラルの言葉を完全に無視することはできないだろう。

 大公はトーマスに尋ねるはずだ。『お主が勝利したという結果は揺るがない。しかし薄氷を踏むかのような勝利であったこともまた事実。この結果のみで今回の勝利とするもよしだが、双方が納得できるようなさらなる決着のつけ方があるのならば提案するがよい。勝利を得ているお前にはその方法と条件を提示し相手に了承させる権利がある』と。


「そうなったらこう答えるんだ。『ハプスクラインのダンジョンへの挑戦を!私とユスティに継承の儀式への挑戦をお許しください!これをもってすればどちらが王位を継承するに相応しい者なのかが分かると考えます』って」


「「「…………」」」


 トーマス、サファイア、ガーネットは唖然として声も出ない。トーマスがやっとのことで声を出した。


「そ、そんなにうまくいくものでしょうか?」


「ダメだったらその時さ!だけどこれなら全てがうまくいったとき、大団円が待ってるはずだよ?」


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 大公の前で跪きながらトーマスは全てがプレスの計画通りに進んでいることを実感していた。

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