第41話 決着?

「「「おおおおおおおお!!!」」」


 無傷のプレスを観た観衆はさらに熱気を帯びる。


「躱したらしい…」

「あの不意打ちで無傷はダメだろ…」

「やっぱりあいつは普通じゃないな…」


 カーマインの街から骨休めの観光に来ていた冒険者達は冷や汗を流しながら口々に呟いていた。考えていることは底が知れないプレスの真の実力への畏怖や戸惑い、それと…、


「やっぱり気の毒な奴だったか…」

「A級とは言ってもなー。プレスでは相手が悪かったか…」

「奥の手も失ったしな…。あとは仕留めるだけだろう…」


 勇者候補への同情であった。


「プレスさん…。よかった…」


 そう安堵の呟きを漏らすのは貴賓席のトーマス。それとは対照的に第二夫人シーラルにとっては穏やかではない。


「ぐぐぐ…。何をしているのです…。勇者候補であればあのくらいのゴミ冒険者さっさと倒してしまいなさいよ…」


 流石に王族として声を張り上げることはしないが、口の端々から恨み節が聞こえてくる。


「お兄様!あの元冒険者の方はすごいですね!」


 ユスティがトーマスに話かけ、話しかけられてトーマスは笑顔で頷く。大公の座を争う相手とは言え本質的に仲は悪くない二人である。しかしそれもシーラルが睨むのでユスティはすぐに表情を戻した。


 そして会場では、


「よかったー!プレスさん!無事だったんですね」


 声をかけたガーネットにプレスは軽く頷いてから勇者候補に向き直る。


「残念だったね。さてと…。そろそろ決着といこうか?」


 事も無げに話すその姿を見た勇者候補プレストンの顔は真っ赤に染まっていった。


「き、貴様ごとき元C級冒険者に俺様が負けるわけがない!!!」


 そう激高した勇者候補が大剣を振るう。先ほどより刃風は相当に強い。


『流石はA級ということかな?弱くはない。強いとも思いはしないけど…』


 そう心で呟きながらプレスはかねてからの作戦を実行しようと少しずつ移動しながら勇者候補の斬撃を捌く。


「はははは!どうだ手も足も出まい!」


 本気の斬撃をプレスは辛うじて躱している…、ように勇者候補の目には映っているらしい。少しずつではあるがプレスは移動している。勇者候補は本人が全く気付かないうちに導かれるように目的の場所まで誘導されていた。そしてその時は訪れる。


「ぐっ!」


 斬撃を受け流した筈であったプレスは態勢をくずした。観客にもそのように映った。ということは…。


 まさに好機!と勇者候補の目にも映っただろう。必殺の斬撃を放とうと足の位置を決めたその瞬間。


「????」


 勇者候補の脚が沈み込んだ。バランスを崩しその場に膝をつく。石造りの床が割れ、窪みができていたのだ。最初の一撃で勇者候補が床を砕いた箇所である。彼は完全にここに誘導されたのであった。


「!」


 前を向くとそこにプレスの姿はなく、背後に回り込んだプレスの長剣が首筋に置かれていた。


「勝負あり!!」


 審判の声が晴天の空に響くのであった。

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