第40話 熱戦

 ガンッ!ガンッ!ガンッ!


 大剣の力強い打ち込みを受け流しながらプレスは少しずつ移動する。傍目には完全に劣勢であった。プレスは冷静に勇者候補プレストンの動きを観察する。派手な攻撃を連続で放っているがやけに隙が大きい。飛び込んでくれと言っているような斬撃が何度もある…。


「…誘っているんだろうな…」


 誰にも聞こえないような小さな呟きがプレスから漏れた。冒険者は常に奥の手と呼ばれる秘密を持つ。こと戦闘においては手の内を明かすときは相手を仕留めるときのみ。これは常に命を危険に晒している上級の冒険者の中では常識であった。勇者候補のプレストンはそのでこの試合を終わらせようとしているのか…。


『それを解明しなくては作戦が上手くいくとは思わないな…。よし…!』


 今度は完全に心の中で呟いたプレスは誘いに乗ることにした。プレスの右わき腹を狙って大剣が横に一閃される。かなりの大振りだ。バックステップがセオリーだがプレスは右後方に移動する。大剣の間合いを紙一重で外し大剣を振って空いた勇者候補の左側面に肉薄する。この試合で初めてのプレスの好機と観客には映った。プレスが斬撃を加えようとしたその時…。


地槍グランドランス!!」


 その声と共に会場には凄まじい爆音が鳴りもうもうと粉塵が巻き上がる。


「なんだ!?何が起こった?」

「どうなったんだ?」

「細いほうの奴が接近したとたん爆発したぞ!」


 そんな声があちこちから聞こえてくる。その一方で、


「あれって中級魔法だよな…?それも無詠唱って…?」

「なんで大剣使いがあんなものを使えるんだ?」

「すげえ!あいつ本当に前衛か?」


 冒険者達である。


「プレスはどうなった?まさかまともに喰らったなんてことは…」

「それはないと思うが、あの大剣使い…相当なタヌキ野郎ってことだな…。あの大振りの斬撃は魔法攻撃を呼び込む撒きブラフってことだ」

「奥の手ってことか…」

地槍グランドランスは威力の割に範囲が狭い。よく考えてあるとは言えるな…」


 地槍グランドランスは地面に魔力で働きかけ小規模ながらも強力な爆発を生み出すという土魔法のなかでは中級の部類に入る魔法であった。この爆発をまともに受けたのであれば数日は起き上がることも難しい重症を負うことになる。本来、前衛職と呼ばれる剣士などが習得できるものではない。勇者候補プレストンはその土魔法を使って見せたのであった。さらにそれがかなりの鍛錬を要求される無詠唱で行われたことも冒険者達を驚かせた。


 巻き上がった粉塵を前に勇者候補プレストンは笑っていた。


「はははははは。不意打ちをしたようですまなかった。しかしこれもまた勝負よ。さあ!審判!!判定を聞かせてもらおうか!」


 粉塵はなかなか治まらない。


「プレスさん…」


 貴賓席から観戦していたトーマスが思わず声を漏らす。しかし王族として動揺した姿は辛うじて見せないでいた。


「ふふふふふ。あの冒険者も頑張りましたがこれが勇者候補の実力というものですよ」


 そう笑みを堪えずに話すのは第二夫人シーラル。


「母上。勝負はまだ決まっていません。それに…」


 ユスティが母親に何かを語ろうとしていたが、


「あなたはただ黙って観ていればいいのです!」


 そう言われて俯いてしまう。


 爆発の衝撃が収まり始め会場をもとの熱気が覆い始めた…。観客たちは思っていた。勝負がついた…と。あの爆発をまともに喰らって立っていられるわけがない。


「プ、プレスさん…」


 戦いを見ていたガーネットは心配そうに見つめている。


 一陣の風が粉塵を攫っていく…。すると…。


「「「おおおおおおおお!!!」」」


 会場が今日一番の歓声に包まれた。


「いやー。少し驚いたよ。何かあるとは思ったけど、まさか土魔法を使うとはね」


 何事もなかったようにプレスがそこに立っていた。

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