第38話 御前試合
初夏と思われる晴天に恵まれた日、エルニサエル公国の首都ハプスクラインは歓喜に沸いた。カーマインの街を厄災から救った冒険者が来訪したことを記念して街を挙げての祭典がついに開かれたのだ。
この祭典は一か月間を予定されている。国中から特産品が集まりこの街の名物である市場はこれまで以上の活気を帯びる。各商会は街の広場に市場を開くことを許可され周辺から集まった商人たちが熱心に商戦を行っていた。さらに商機を感じた者達が開いた屋台が通りに並び、街は文字通りのお祭り騒ぎとなった。
そしてこの祭典に集まった人々を驚かせたのが湖畔の水上に造られた闘技場型の屋外ステージである。初日にはこの国において高い人気を誇る歌い手であるモニカ=シトロスがこのステージに登場し、満員の聴衆を前に高らかに国家を歌い上げることで祭典の開始を宣言した。
そして御前試合の日を迎える…。
今日もステージは満員御礼と言ったところか…。貴賓席に大公イサーク=ラーゼルハイドとその妻である第二夫人シーラルが姿を見せると歓声は一層高まるのであった。その傍らにはトーマスとユスティの姿も見える。
「体調は大丈夫ですか?何か必要なものがあったら言って下さい」
控室でガーネットが声をかけてくる。声が緊張気味だ。
「ああ、大丈夫。特に問題ないよ」
いつもの調子でプレスは答える。ガーネットがプレスの付き添いを申し出てくれた。トーマスは貴賓席。騎士であるサファイアは会場の警備に出ている。サファイアはまだ若く将来を嘱望されてはいるが役職にはついていない。会場のどこかで警備をしながら試合を観るとのことだった。
プレスはいつもの冒険者風の服装である。流石に木箱は背負っていない。あれは宿に置いてきた。手元には長剣が一振りある。試合では刃引きした武器を使用するとのことで事前に長剣をオーダーしていたのだ。剣の状態もまずまずと言ったところであった。
会場の喧騒と熱気が伝わってくる。相手がどのような先方で来るかを少しだけ思案していたところ喧騒が静まっていった。どうやら大公の言葉が告げられるらしい。声は控室まで聞こえてくる。
「皆の者!この祭典は我が国の宝『破邪の首飾り』が取り戻されたことを記念する祝いの祭典である!楽しんでいるだろうか?本日、このような舞台を用意したのは我が子トーマスとユスティによる模擬戦を行い皆に王子たちの成長を皆に知ってもらおうと思ってのことだ!だが二人ともまだ若くユスティが年下であることを考えれば直接の模擬戦ではトーマスが優位であろう。そこで儂は条件を付けた。双方が代理を立てることを許すと。国を背負う者として、この国を明るい未来へと導くものとして、その目で相応しいものを探してみよと!」
歓声が巻き起こる。
「ただし儂はさらなる条件を付けた。我が国の騎士の登用を禁じると!そのため必然的に冒険者を雇うことになっただろう。冒険者の中には我ら貴族を快く思わないものもおるやもしれぬ。しかしその状況で交渉力、人物…ここでは主に武力だが…それを見極める力が問われることとなる。当然、人物も重要だ。汚い戦い方をする者を登用すればそれは無能の
割れんばかりの歓声がステージにこだました。雰囲気は最高潮という感じだろうか…。
「入場の準備を!」
そう言われたプレスは腰に刃引きされた長剣を差しステージへと向かうのであった。
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