第36話 勘違いの冒険者

「いやー、助かりました。ありがとうございます。ええと…あなたは…?」


 とりあえずプレスは礼を言う。


「おれはA級冒険者のプレストン。ふっ…。当然のことをしたまでさ…」


 何やら態度が鼻につく。


「あの…。さっきの連中はあなたのことを勇者パーティ候補って言っていましたがそれは…?」


 ちょうどいいとばかりに聞きたいことを尋ねるプレス。


「カーマインの街に降りかかった厄災のことは聞いているだろう?俺たちがハプスクライン目指して森を移動しているところにカーマインの街に向かう魔物と遭遇したのさ。それを俺達が討伐したってわけだ」


 自慢げに盾持ちが答える。何を言っているのか分からないプレスだが何も言わない。


「なんて言ったってワイバーンの亜種が三匹もいたんだからね。あたし達がいなかったらカーマインの街は壊滅してたと思うよ」

「そうそう!討伐したら偶々狩りに来ていた大公家の第二王子ユスティ様一行から声がかかって、大公様への推薦を頂き勇者パーティの称号をくれるっていうことになったのよ」

 魔法使いと僧侶の女性も続ける。


 貴族と冒険者の間に大きな溝がある昨今、なかなか聞かない話だ。勇者パーティとは遥か昔、魔王と呼ばれる存在がまだあったころにその魔王を討伐した者を讃えて呼ばれる呼び名である。それに肖り、多大な功績を残した冒険者パーティは各国の王族から勇者パーティを名乗ることを許される場合があった。


「……????……!!!」


 プレスは頭の中でパズルを組み立てていた。


 どうやらこの男は自分と同じプレストンという名前らしい。


 それが偶々カーマインの街の方角へ移動中のワイバーンの亜種三匹と遭遇し、これを討伐。


 恐らく時を同じくしてカーマインの街の厄災がプレス達によって解決された…。


 ワイバーンの亜種討伐を大公の第二夫人であるシーラルが聞きつけ陣営に引き込んだ。


 恐らくカーマインの街の冒険者ギルドからの報告書はハプスクラインのギルドで握りつぶされたか、大公家にこいつらが英雄だと聞かされてロクな確認もしないままに容認したか…。


 カーマインの街では盛大にお祝いをしたがハプスクラインにはまだその詳細は届いていないらしい…。何人かの冒険者や商人もこちらに来ているとは思うがそれらは小さい声として黙殺されている…。


 ……と言ったところだろうか…。心に疲れを感じるプレスであった。


「でもさっきの連中は巨大なドラゴンを真っ二つにしたって…」


 少しだけカマをかけてみるプレス。


「はっはっはっは。噂ってものは怖いものだな!そんなことできるわけがないだろう?討伐の話に何故かそんな尾ひれが付いてしまったよ!」


 そうやって笑う勇者候補パーティ。


「それはそうと…。冒険者君。君の名前は?」


 盾持ちが聞いてくる。


「シングルトンと言います。既に引退した身ではありますが…?」


 とりあえず偽名で答えるプレス。


「シングルトン君。言っちゃあなんだが…。こんな物騒なところを一人で歩くなんて危ないなー。俺達がいなかったら今頃は…」

「そうそう!」

「危なかったよねー」

「だから…。ね……。何と言うか…」


 なんとロクな連中ではなかった。このパーティはプレスが金を持っていることを感じて助けに来たのだ…。冒険者の間で時折見られる分かり易いタカリである。プレスはこのパーティの本質を垣間見た気がした。とりあえず一人当たり金貨一枚を渡す。


「では!失礼します」


 にこやかな笑みを浮かべてプレスは勇者候補パーティと別れた。


「どういう模擬戦にしてやろうか…」


 闘志が漲るプレスであった。

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