第35話 勇者候補プレストン?

 辺りはすっかり暗くなっている。まだまだ日の入りは早いようだ。宿泊予定の『踊る宝石亭』を目指してプレスは歩いている。荷物はマジックボックスに収納しているため腰に安物の長剣と木箱を背負ったいつものスタイルである。


 ギルドで貰った地図を頼りに近道の路地に入る。しばらく歩いていると予想通りに声を掛けられた。


「おい!そこで止まりな!」


 細い路地でプレスの前後を二人ずつ四人で囲む。


「君たちはギルドからおれのことをつけていたよね?何の用かな?」


 どう考えても強盗なのだが一応プレスは聞いてみることにした。


「金貨二十枚で引退とは幸せな人生じゃねぇか!」

「羨ましいねえ!」

「その幸せを俺たちにも分けてくれねえかな?」

「有り金置いていけば命だけは勘弁してやるぜ!」


 見事なまでにお決まりの台詞を並べる冒険者達。こういった輩はどの街にも一定数はいるものだとプレスも分かっている。しかしプレスとしてはここで騒ぎを大きくしたくない。大公家の街での評判と偽物の観察をしたいのだ。トーマスの依頼を受けることも考えるとこの状況はあまり良いとは言えなかった。少し考えて、

「たすけてくれぇ!強盗だー!!!」

 絶叫してみるプレス。


「馬鹿め!この路地じゃあ誰も怖がって近づかねぇよ!!」


 すり抜けることもできるが、どうしようかと思っていると…。


「そこまでだ!」


 路地先から声がかかった。


「てめぇら!何者だ!」


 四人組の一人が恫喝する。


 声をかけたのは一人の男。その後ろには三人。プレスが目をやると冒険者パーティのようだ。声の男は腰に長剣を差し背中にはやけにゴテゴテと装飾のついたド派手な大剣を背負っている。残りの三人は盾持ちのいかつい男、フードを目深に被っている僧侶の女性、魔法使いと思われる女といったところか…。


「俺は冒険者の!名前くらいは知っているだろう?」


 にやりと笑う男。


「え゛?」


 思わずから声が漏れた。これが話に聞いていたカーマインの街を救ったと言われている冒険者嘘つきか?


 目を白黒させる当のプレスを他所に四人組は震え始める。


「ま、ま、ま、まさかあんたらが勇者パーティ候補の英雄プレストンとその仲間たち?」

「カーマインの街を厄災から救ったっていう…」

「背中の大剣で巨大なドラゴンを真っ二つにした…」

「リッチの最上位種を手玉に取った上に指一本触れずに消滅させたって…」


 でっかいドラゴンゾンビの首は落したけど真っ二つにはしてないし、流石にダークリッチに指一本触れないで消滅はさせられないかも…。そもそもソロだったはずなのにいつの間にかパーティになってるし…。とプレスが遠い目をしている間にも、

「やるのかい?」

 プレストンが凄む。


「「「「すいませんでした!」」」」


 四人組は逃げ出した。


 これがプレスと自称プレストンの衝撃的?な邂逅であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る