辺境の冒険者は穏やかな旅がしたい

第22話 脅威を討つ

「貴様は！？」

　背後から剣を突き立てられたままダークリッチは声を挙げる。

「決着をつけてあげるよ…」

　そう言いながらプレスは長剣を引き抜きざま、ダークリッチの背後から左腕を下段からの斬撃で斬り飛ばす。

「！」

　驚くダークリッチ。プレスは勢いそのままに体を回しながらダークリッチの首に斬撃を当てた。

　ガキン！！

　という金属音と共に長剣が止まる。プレスは止まらず地面を蹴り、魔物の群れから離れる方向にダークリッチを押し込んだ。群れから距離を取り蹴りを入れて突き放す。

　プレスの凄まじい早業に冒険者達から歓声が上がる。

「あれがプレスか？」

「すげー！」

　すぐさまフレイアが指示を飛ばした。

「体制を整えろ！このまま魔物の群れをこちらに引き付ける。気を抜くな！」

「「「おう！」」」

　勢いを取り戻した冒険者達が再び動き出した。

　蹴り飛ばされたダークリッチは事も無げに起き上がる。左腕は既に再生していた。

　今の一撃で斬れなかった…。プレスは少しだけ自分の予想が外れたことに歯噛みした。ダークリッチを見据えるプレス。

「素晴らしい。人の身でこれほどの力を収めるとは…。この漆黒のフィルゼガノン、ここまでの人がいるとは知りませんでした」

「それはどうも…」

「しかし、それが人の限界というもの…。その長剣は既に使えまい…。そして先ほど私をコケにしたのはあなたですね…？」

「だとしたら？」

　プレスが手にしている長剣が崩れ去る。

「貴様だけはここでコロス！！」

　そう言ったダークリッチの両手から赤紫色の光球が連続して放たれる。神速の動きで躱すプレス。数々の光球が地面へと着弾しもうもうと粉塵が上がる。既に二人の戦いを冒険者側から見ることはできなかった。

「素晴らしい動きだ！しかし躱しきれるものではない！」

　ダークリッチには余裕があった。

　相手は素早く先ほどの蹴りからも体術の心得もあることが分かった。それでも相手に自分を斃す手段はないと思われる。しかし奥の手を考慮してより慎重を期するのであれば間合いを取った魔法の連続攻撃が最も効率的。詠唱に時間が必要な大魔法を使う隙を狙われて何らかの奥の手を使わせるようなことはしない。

　ダークリッチはこの戦い方で押し切れると考えていた。しかしこれらが愚かな間違いだと気づくほど彼に時間は残っていなかった。

「そろそろだな…」

　そう呟いたプレスは足を止める。既にガタガタと暴れている背中の木箱を地面に置いた。

「馬鹿め！これで終わりだ！」

　光球が数十発着弾する。直撃だ。この世界にこの魔法をこれだけ喰らい原型を留められる生物などいない筈である。

「はははははは！口ほどにもない…？」

　しかしダークリッチは気配を感じて言葉を失う。

　一陣の風が舞う。プレスの立っていた場所のみ粉塵が晴れ、数か所から流血するも左程ダメージを受けていない様子のプレスがそこに立っていた。

「なにぃ！？バ、バカな…。何故だ…。何故立っていられる…？」

　プレスは手に紙を持っている。指から流れる血を使い素早く魔法陣を書き込んだ。

「行くぞ…！天地疾走（オーバードライブ）！解呪（アンロック）！」