第14話 金色に輝く剣
「
プレスがそう唱えた瞬間、木箱の上方が開き一振りの剣が飛び出したてきた。
「!」
些か慌てながらプレスはその剣の柄を握る。全てが金色に光り輝く片刃の剣。刃渡りは一メトルほどだろうか。拵えは素朴な物のようだが、反りのある刀身は言葉にできないほどの美しさを湛えていた。
その剣を構え、ドラゴンゾンビに向き直るプレス。本来は夜のように漆黒のその瞳が金色に輝いていた。
「さて…いくぞ!」
小さく呟いたプレスの姿は最早その場所にはなかった。先ほどの数倍の速度でドラゴンゾンビに肉薄する。
「は!」
短く気合の言葉を吐きながら金色に輝く剣を一閃した。先ほどと同様にドラゴンゾンビの右腕が斬り飛ばされる。今度も再生するかと思われたその時、
「ギィアアアアアアアアアアアア!」
ドラゴンゾンビが絶叫する。アンデッドの筈なのに痛みを感じているようだ。そして右腕は再生されない。斬り飛ばされた右腕はドロドロに溶けた後、灰となって空中に消えてゆく。
さらにプレスは足を切り落とす。二足歩行であったグレイトドラゴンのドラゴンゾンビはたまらず地面に倒れた。今度も足は再生されない。いつのまにか瘴気も消え失せている。倒れながらもプレスを見据えるドラゴンゾンビは酸を吐こうと口を開けかけるが…。
「それはさせない」
倒れたことで攻撃可能となった首を目掛けてプレスは斬撃を加えた。あっさりと切り落とされるドラゴンの首。それをプレスは縦横無尽に切り裂いた。さらにその勢いのまま胴体も真っ二つに両断する。
断末魔の悲鳴を上げることもなくドロドロに融解し灰となって消滅してゆくドラゴンゾンビ。消滅したその場には禍々しい魔力を放つ巨大な魔石がひとつ取り残されていた。
さらに周囲に向けて剣を振るうと…。驚くことに先ほどまで瘴気に影響され黒く変色していた森の木々の葉がもとの深緑へと戻っていった。吐き出された酸でボロボロになった大地の草木も元通りになっている。一体何が起きているのか…。周囲の環境を元に戻したプレスは周囲にそれ以上の脅威がないことを確認する。
何とか討伐することはできた…。大勝利と行きたいところだがプレスはそれどころではなかった。
「ぐっ…」
思わずよろめく。肩で息をしながら木箱へと向かう。右手の剣の光が増してゆく。
「はあ、はあ、はあ。さすがにこれは負担が……くっ……まだだ。意識をしっかりと……」
苦しそうにしながらも木箱へと辿り着いた。
力を振り絞り胸元から一枚の紙を取り出す。先ほどと同様の方法で魔法陣を書き始めた…。デザインが異なる魔法陣が完成し、その手に持っていた剣を木箱に納める。蓋を閉じ、側面に紙を押し付け唱えた。
「
途端に光が消え、夜の帳がプレスを飲み込んだ。がっくりと膝をつくプレス。息も荒く辛そうだ。
「はあ、はあ、はあ。だから使いたくないんだって…」
そう言いながらやっとのことで仰向けになる。ドラゴンゾンビを斃すことはできた。およそ一人の所業とは思えない事実ではあったが…。全身に疲労感を感じてはいたが、動く脳内でプレスは現状について考える。このドラゴンゾンビであれば村もカーマインの街も全滅の可能性があった。本当にこれで終わりなのだろうか…。カーマインの街の周囲からモンスターは消えていた。もしこのドラゴンゾンビ一体だけではなかったとしたら…?もし他の魔物の発生があったとしたら…?
ゆっくりとプレスは起き上がった。消耗しているがそんなことは言ってられないかもしれない。
「とりあえず。村に報告しよう。それからカーマインの街だ…」
討伐証明としてドラゴンゾンビの魔石を持ち、まだ夜明けには数刻必要な夜の中、やや覚束ない足取りでプレスは西の村への帰還を選択したのだった。
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