第11話 再度、西の村へ

 ざわつくギルドの建物内…。


「どういうことだ?フレイア!説明してくれ!」

 冒険者の一人が問いかける。


「分からないか?これだけの討伐依頼の空振りがギルドのミスとは思えない!この街の周囲から魔物が消えたんだ!これが意味するところは…」

「『波』か極めて強い魔物の発生かの?」

 二階へ続く階段から一人のドワーフがそう答えながら降りてきた。どうやらギルドマスターらしい。


「フレイア。お主はこの現状が異常事態の前兆というのだな?」

「マスター!可能性の問題だ。何かあってからでは遅い!ギルドが動かないなら私が警備隊に要請を出す」

 A級冒険者の社会的権威は大きい。フレイアにはそのことが可能であった。


「ふむ。ならば対応は早いほうがよいな。よし!ギルドはA級冒険者フレイアの判断を適切なものとし、監視員と斥候を街の周囲に放つこととする。準備を!」

 職員たちが慌ただしく動き始めた。プレスはこれがC級の自分とA級冒険者との差かとちょっとだけ複雑な思いを顔に浮かべたが、自分の意図通りに事が動き始めたのでここまでは何も言わなかった。


 ギルドマスターは指示を続ける。

「このギルド周辺にいるC級以上の冒険者は『波』か極めて強い魔物が発生した場合は戦闘に参加してもらう。それ以外の冒険者には救護等の対応をしてもらおう。これは全員参加の緊急討伐依頼だ!」

 緊急討伐依頼はギルドから出される依頼である。これを拒否した場合、冒険者はその権利を剥奪されギルドを追放されてしまう。受けるしかない依頼であった。


「おお!」

 喊声かんせいを上げる者、青ざめる者様々であった。


 ここでプレスが手を上げる。

「あのう…。質問しても…」


「なんじゃ?お主は?」

「プレストンという者だけど…」

「おお。S級依頼を達成したという冒険者じゃな?話は聞いておる。会いたかったのじゃが…。不在にしていて申し訳なかった。それでどうした?何が聞きたいのじゃ?」

「ああ。緊急討伐時の冒険者の配置は?」

「このカーマインの街を守るように配備されると思うがの」

「では近隣の村々は?」

「カーマインの街への避難勧告を出すことになるじゃろう」

「恐らく明日になりますね?冒険者は明日の午後くらいまで待機かな?」

「じゃろうな」

「ありがとうございました」


 そう言ってプレスは席を立った。

「プレスさん?」

 受付嬢は少し驚いたようだ。

「西の村まで行ってくる。大丈夫、明日には戻ってくるから」

「今夜にでも何かがあるとお思いですか?」

 プレスは首を振った。

「何も根拠はないよ。だけど村長さんが歓迎してくれたからね。おれだけでも行って何かあったら力になってくるよ」


 ざわつく周囲を他所にそう言ってギルドを後にしようとするプレス。その前に女性が立ちはだかった。フレイアである。しかしそれに怯むようなプレスではない。

「どうかしたの?」

「貴様!状況を分かっているのか?ここは冒険者が団結して力を出すところだ!勝手な行動は止めてもらおう!」

「別に勝手じゃないさ。あなたも聞いただろう?冒険者が動き出すのは早くても明日の午後だ。それまでをどう過ごすかについては縛るものがないはずだが?」

「ぐっ」

 一瞬言葉に詰まったその隙にプレスはすり抜ける様にフレイアを躱して外に出た。背中からはフレイアの声が聞こえるが構ってはいられない。


 西の村に行こうとしたその時、

 ガタガタガタッ!。背中の木箱が鳴った。


「どうやら今日は眠れそうにないらしい…」

 そう呟いたプレスは西の村を目指して走り出していた。

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