第10話 再びのギルド
プレスは往路にかかった半分以下の時間でギルドへと到着していた。夕日になるまでにはもう少しといったところか。
この時間のギルドは人もまだ少ない。冒険者たちが報告のために戻ってくるには少し早かった。受付も少ない職員で対応している。馴染みの受付嬢がプレスを見つけて声をかけてきた。
「プレスさん?どうされたのですか?西の村へ行かれたのに…」
「ちょっと気になる事態に遭遇したので報告に戻ってきた」
「気になることですか?」
「ああ。依頼は西の村周辺の森に発生したゴブリンの討伐だった。しかし森にはゴブリンなんて影も形もなかった。それどころか他の魔物や動物ですら一匹もいなかったよ」
「本当ですか?」
さすがに受付嬢も怪訝な表情を浮かべた。
「嘘をついても始まらない。村長にも報告した。最悪の場合は…」
「『波』か極めて強い魔物が発生した場合のことを仰っているのですね?」
「そうだ。その前に報告をと思い戻ってきた。なんとかギルドの方から斥候か監視員を派遣できないだろうか?」
しかし受付嬢は困ったような顔をした。
「プレスさんが嘘を言っているとは私は思いません。しかしこの情報だけではギルドからはまだ何も…」
「おい!どういうことだ!」
冒険者が受付へと歩きながら怒鳴っている。
「この討伐依頼は嘘っぱちだ。魔物なんていやしねー!依頼主に報告したら依頼放棄とか言われるし、ひでえ目にあった。ギルドの調査はどうなっている!」
別の受付嬢が対応するが冒険者の怒りは収まらないようだ。
虚偽の依頼をさせないため、通常は依頼が出された場合(特に討伐依頼の場合だが)、ギルドは監視員かギルドが雇った斥候がその依頼の真偽を確かめることになっていた。そのため討伐依頼が虚偽ということは殆どあり得ない。しかしプレスと同様にあの冒険者も討伐対象がないと言っている。プレスと受付嬢は見合わせた。するとドアが開き続々と冒険者たちが入ってきた。
「おーい。このコボルトの討伐依頼はおかしいぞ!コボルトなんていねーじゃねーか!」
「討伐対象が見当たらないのだがこれは本当か?」
「パーティで血眼になってさがしたけどレッドスライムなんてどこにもいなかったわ!」
「………」
おそらく討伐依頼を受けた冒険者達だろう。皆口々に不満を述べる。
「うるさい!」
よく通る女性の声が響いた。全員がぴたりと口を閉じる。ギルドの入り口付近に女性が立っていた。ブルネットの髪ときつめの視線を持った美しい顔立ちと鍛え上げられながらもすらりとした佇まい。腰も高く胸も見事に張っている。動きやすさを重視したマントと冒険者用の上下。背中に背負った大きな大剣が目を引いた。
「誰?あの人?」
プレスはひそひそと受付嬢に尋ねる。
「フレイアさんです。この街で最強と言われているパーティ『龍の大剣』でリーダーをしているA級冒険者さんです」
「最強?この前のアーバンとかいうやつより強い?」
「ええ。アーバンさんではフレイアさんの相手にならないです。彼女は最もS級に近いとも言われていますから…」
「へえ…」
プレスは感心している。そんな女傑がこの街にいたとは…。
フレイアは押し黙った冒険者達が開けた道を通り受付まで来る。
「今朝受けたワイバーンの討伐依頼。街を守るために緊急でと言われた我々は全速で現場に向かった。しかし行ってみればワイバーンなど一匹たりとも見つけることはできなかった。冒険者にとって情報とは時に生死を分かつ重要なものだ。たまたま『ワイバーンがいない』という結果だから私たちは戻ってこれた。しかし『もっと強い何かがいる』という結果であれば全滅もあり得た。我々はギルドを信頼して依頼を受ける。このようなことがあってはならないのだ。納得いく説明をしてもらおう!」
「フレイアもか!おれたちも同じ目にあったぞ!」
「そうだ!」
「魔物なんていなかったぞ!」
集まった冒険者たちが声を挙げる。プレスはそろそろ誰かが気づくだろうと思い受付の座席から静観を決め込んでいた。
「ん?お前らもか…?」
どうやらフレイアが気づいたようだ。振り向き冒険者たちに尋ねる…。
「教えろ!今日討伐依頼を受けて空振りにあった奴は誰だ?」
声を挙げていた冒険者達が自分であることをアピールする。
「…」
フレイアは俯き押し黙る。ざわつく周囲の冒険者。
「お、おい。どうしたよ?フレイア?」
顔を上げたフレイアは受付に向き直り大声を張り上げる。
「ギルドマスターはいるか?異常事態発生だ!」
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