第9話 ゴブリンはどこだ?

 西の村はカーマインの街を出て一刻ほどで到着することが出来た。昼食には中途半端な時刻ということもありプレスは村長宅で事情を聴くことにした。村長は六十代の男性で訪れたプレスを歓迎してくれた。


 村長の話ではこれまでも二、三匹での出現はあったらしい。その程度であれば村で対処できたが最近になって十匹程度の群れを見たということだった。村人にとって十匹はさすがに危ない数である。話を聞いたプレスは件の森へと足を延ばしてみた。


「……ゴブリンいなくない……?」

 森の中で立ち尽くしながら呟くプレス。


 こう見えても索敵等の気配を探る能力には結構自信があった。しかしどこにもゴブリンらしき気配がなかった。移動しながら気配を探り、同時に薬草も採取する。


「…薬草も一杯ある…。これだけあれば薬草目当ての魔物も現れそうだが…」

 あまりに何もなくて独り言を呟いてしまう。

「…それにしてもおかしい…」

 違和感があった。ゴブリンどころか他の魔物の気配も感じない。いや魔物だけではなく他の動物の気配も感じないのだ。まるで空洞になった森を移動しているような錯覚すら覚える…。どうやらこの周囲に動くものはいないようだ。森に何もいない…。これはあまりいい状況とは言えなかった。


「原因はいろいろあるが…。とりあえず戻って村長とギルドに報告だな…。依頼放棄とかって言われなければいいんだけど…」

 プレスはとりあえず状況を村長に報告するため踵を返した。


 村長は早く戻ってきたプレスに驚いたが話を聞くと難しい顔になる。

「何かが起こるのでしょうか…?『波』とか…」

『波』とはスタンピードとも呼ばれる魔物の大量発生と暴走である。その前兆の一つとしてある一帯から魔物が消えるということが知られていた。


「最悪の結論は『波』の前兆か、もっと恐ろしい魔物の発生で他へ逃げてしまったかだが…。どっちにしてもこの状態は正常とは言い難い。何かさらなる異常を感じた場合は避難やギルドへの連絡をしてほしい。これからおれはギルドに戻る。何らかの情報が集まっているかもしれない。村長は村人への説明を頼む。何も確証がないこの時点で話を聞いてくれるかは分からないが…」

「やれるだけやってみます」


 村長と別れ細い道を通り抜けた後、街道へと出る。夕方までにはまだ時間があった…。カーマインの街へと足を向けたプレスの背後で…。


 …カタカタ…。と音がした。


 プレスは一瞬足を止めると、表情を引き締めカーマインの街へと駆け出した。

「…これはあまりいい状況ではないかもしれないな…」

 初夏の晴天の午後…。街道には行商人や旅の冒険者など多くの通行人がいた。しかしその呟きは風にかき消され誰の耳にも届かなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る