第6話 C級冒険者

「え!?C級ですか!?」

 そんな驚いた声を聞くプレスはどうということはないといった表情で返す。

「運がよかったのさ…」


「おいおいC級かよ…」

 周囲もざわつく。


「報告したことに嘘はない。盗賊団の討伐はエリーが証明してくれるよ。破邪の首飾りは本物であってほしいが盗賊から奪ったことは事実さ」

 さらりと受付嬢に話すプレス。

「分かりました。プレストンさん。冒険者証の確認は完了しました。当分この街に滞在されるとのことですので数日後またいらして下さい。確認の結果をご報告します」

「了解。路銀を稼ぐ必要があるからね。また来るよ。そうだ、どこか宿を取りたいんだけど、いい宿を知らないかな?」

「それでしたら商会地区にある黒猫亭は如何ですか?冒険者の方が使われる商店が近く便利かと思います。こちらが街の地図です」

「ありがとう。行ってみるよ」

 地図を受け取り感謝の意を表すプレス。そしてエリーに向き直る。

「エリー。ここでお別れかな?元気でね」

 エリーは涙ぐんでいるようだった。

「本当にありがとう」

「当分はこの街にいるから何かあったら言ってよね」

 明日以降の話をするためエリーは二階に行くようだ。プレスはホールで依頼の掲示板を見ようと移動する。少し予想はしていたが案の定絡まれた。


「おい!お前は本当にあの依頼を達成したってか?フカシこいてんじゃねえぞ?」

 禿頭で髭面、二メトルはある大男が近寄ってきた。この街の冒険者のようだ。どの街にもこういう輩はいる。

「君は?」

「俺はアーバン。この街のA級冒険者だ」

 A級冒険者は街の顔であったりもする。自分を差し置かれたのが悔しいらしい。

「事実は事実さ」

 とりあえず平然と受け流す。

「大方、首飾りもどこぞから盗んできたんだろうが?」

「例え盗んだとしても盗賊団相手だしギルドに報告したんだから問題ないんじゃないかい?」

 平然と正論で返され、目に見えて頭に血が上る冒険者。

「君は不快に思っているかもね。だけどさっきも言ったように事実は事実。だけどこれ以上揉め事を起こすつもりもないよ。だから今日は失礼するね」


 そう言ってプレスは男の傍を通り抜けようとする。はっとした大男は話は終わっていないとばかりにプレスが背負っている木箱に手をかけようとする。

「待ちやが…」

 男は全てのセリフを言うことができなかった。高く造られたホールの天井すれすれにアーバンと名乗った男の身体が宙を舞い、背中から叩き落とされる。

『いつものようにアーバンがよそ者に絡んでいる』くらいに思っていた周囲の冒険者達はあまりの事態に声も出なかった。


 アーバンは態度に問題があるとはいえ間違いなくA級冒険者であり、このギルドでもトップクラスの実力者である。あんな細身の男に投げ飛ばされることなど考えられなかった。それ以上にアーバン自身を含めて驚愕したのはが全く分からなかったことだ。


 いつの間にかアーバンの首元にはナイフが当てられている。生殺与奪の権利は完全にプレスのものであった。

「人は誰にもがある。君も気をつけることだ。路銀のためにおれは依頼を受ける必要がある。明日もここに来るがもうこんなことはしないことだ…。いいな」

 素早くナイフを収めるが一瞬だけ見えた殺気にアーバンは震えていた。


「何をしているんですか!?」

 ギルド職員が集まってくる。

「何、冒険者同士によくあるイザコザですよ。明日はもう起こらないはずさ」

 そう言ってその場を後にするプレス。あまりの出来事に誰も声をかけることも、引き止めることもできなかった。


「ふう。あんまりこういうのは好きじゃないんだけどな…」

 ギルドを出たプレスはそう呟く。さらに

「さて、黒猫亭を探さないと…」

 そう言ってプレスは地図を片手にカーマインの街へと身を翻した。

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