第4話 カーマインの街へ

 エリーとお頭は幽鬼のような顔を浮かべている。十数人の盗賊を圧倒し、近寄ってくるプレスは同じ人族とは思えなかった。


「あなたは一体…」

 言葉が上手く出なかった。


「報酬の金貨一枚よろしくね?それとお頭さんに話がある」

「おれに?」

 頷くプレス。

「お頭さんは冒険者ギルドから討伐対象になっているかな?」

「ああ。まあな」

 エリー達の盗賊団は当然ながらカーマインの街からはお尋ね者として冒険者ギルドから討伐依頼が出されていた。

「となるとあなたにも死んで頂く必要があるかな?」


 プレスは長剣を持ったままだ。エリーは思わず前に出た。

「待って!お願い。この人のことは殺さないで!」


 プレスは優しい笑みを浮かべ答える。

「さっきの二人の会話も聞いちゃったしね。命を獲ろうとは思わないよ」

 エリーは再び混乱していた。

「どういうこと?」

「冒険者であるおれが盗賊に出くわしてなんとか討伐した。そこで捕まっていた女性を助けたとギルドに報告するっていうのがいい筋書きかな?だからお頭さんを倒したって言う証拠が欲しいんだけど…」


「これを持って行ってくれ!」

 お頭は首から下げていた青い紅玉のネックレスを投げて寄越した。

「エルニサエル公国の国宝『破邪の首飾り』だ。ギルドが把握しているおれの一番大きい仕事さ。これがあれば盗賊団の討伐証明になる」


 プレスは満足げに頷く。

「これで大丈夫。じゃあエリー、とりあえずカーマインの街まで行こうか?お頭さんとは当分お別れかな?この盗賊の話が忘れ去られたくらいに一緒に暮らせばいいよ」


 それについてはお頭も納得したらしい。エリーは思わず問いかけていた。

「あなたには感謝している。でも教えて…。どうしてここまでしてくれるの?あなたなら私達を殺して単なる盗賊の討伐で届け出ることもできた。なのになぜ?」

 プレスと名乗るこの男の強さは異常だ。森で出会い騙しただけの相手にすることではない。その気になれば最初に取り囲んだ時点で全員を斃すことができたのだ。


「うーん…。こう見えてもおれは穏やかな旅がしたいんだ。あの時に逃げ出してもよかったんだけど、そもそも道が分からなくてね…」

 頭を掻きながら自分の想いを纏めるように話す。

「それでちょっと君達の様子を見ていたらあんな展開だったからね…。放っても置けなかったよ…。それにおれは殺人鬼じゃないぞ?冒険者である以上は依頼で人を殺すこともあるが、普段はそんな依頼は受けない」


 エリーは穏やかな旅がしたいというプレスの言葉に嘘はないと感じた。この冒険者は旅の途中でお人好しにも騙した相手を助けてくれたのだ。エリーは頭を下げる。

「本当にありがとう」

「ああ。報酬を宜しくね」

 エリーはプレスから受け取っていた金貨を返す。

「確かに受け取った。依頼は完了。では出発しようか?」


 そしてお頭と別れたプレスはエリーの案内で森を抜けることができた。


「ここがカーマインの街よ」

「助かったよエリー。先ずはギルドに行こうか!」

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