Ⅳ N5

「ノムさんはだいぶ羽振りが良かったんですね」

ノムさんがこのビルの所有者だったとは。

「なんのことはない。親から引き継いだだけだよ」

「でも、羽振りが良かったのは間違いないんでしょう」

「まあな」

ノムさんはほんの少しだけニヤついた。

事務所のドアが開いて、ポンチョが顔を出す。

「連れてきましたよ」

ポンチョに続いて、イタチと女の子が一人入ってきた。

イタチは興味深そうに、事務所の中を見ていた。

「ここがユウタさんのねぐらですか」

「違うよ。昼間はだいたいここか、マギーの家にいるけど」

「そうか。ユウタ、このビルの部屋使ってもいいんだぞ」

「えっ」

「家賃は安くしてやる」

「とるんですか」

「とるさ」

「まあ、考えときます。それより今日は」

「そうだな。ここを出て二つ目の部屋だ」

「それじゃ行こうか」

イタチと女の子と部屋を移動する。

「ポンチョは」

「今日はこれから用事があるらしいんです」

「まあ、かまわないけど」

ノムさんから預かった鍵で、部屋のドアを開ける。

部屋の外壁にはネオンサインの名残があった。

飲み屋でもやっていたんだろうか。

ドアはかなり重かった。

「スタジオじゃないですか」

部屋に入るなり、イタチが叫んだ。

無造作に置かれた、デスクチェアー。

「エアコンが壊れてるらしい」

部屋の明かりをつけた。

「座ろうか。ポンチョが掃除してくれたみたいだから」

「はい」

イタチが近くの椅子に座った。

女の子はその隣に椅子を移動させて座る。

「ユウです。よろしくお願いします」

「見たことあるよ。フライヤー配ってたでしょう」

「メンバーだったとは思わなかったけど」

「メイクもしてるし、なりきってますから」

女の子が恥ずかしそうに笑った。

「イタチのギターみたいなもんだね」


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