Ⅳ N3

「ラムコークでいいか」

「ジントニックにして」

「わがままだな」

エルキーがこっちを見て笑う。

「こだわってるって言ってよ」

「ジントニックにこだわる男なんて聞いたことがない」

お互いのグラスを持って、

いつもの丸テーブルに。

「ユキちゃんのこと教えてよ」

「会ったの」

「この前偶然に」

「あいつ、また戻ってきたのか」

「家出をしたって聞いたけど」

「あいつに」

「マギー」

「マギーはあいつのことは知らんぞ」

「そう言ってた」

エルキーは、ラムコークを飲みながら、

少し渋い顔をした。

「家を出て行ってからのことは、あたしもよく知らないんだ」

「婆さんが過保護すぎて」

「かなり可愛がってたみたいだね」

「唯一、血のつながった孫だから」

「エルキーは違うの」

「あたしは親父の連れ子だから」

「あいつの親父が消えちまって」

「その後、ユキの母親があたしの親父と結婚した」

「消えたって」

「あたしも詳しくはわからないよ。子どもだったし」

エルキーは表情も変えず淡々と話す。

「マギーは」

「あの子は、正確にはあたしの姪っ子だ」

「親父の弟が親父に押し付けて来て」

「婆さんが引き取った」

「あたしたちのまわりには、ロクな男がいないんだ」

「親父さんはどうしてるの」

「消えちゃったよ」

「ユキの母親が病気で亡くなってすぐに」

「探さなかったの」

「探さなかった」

「ウチの男どもでまともなのは、爺ちゃんだけさ」

照明が落ちて、ナイト・スウィーパーズが

ステージ上に現れた。

「ところで、あんたのバンドはどうしたんだ」

その先の会話は、轟音にかき消された。

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