Ⅳ N2

「マギーには、お姉さんが二人いるの」

すっかり懐かれてしまったノムさんは、

マギーを膝の上に乗せている。

「うん、そう」

「一番上がエルキーお姉さん」

「そうだよ」

「その下は」

「いないの」

「でもさっき、お姉さんは二人いるって言ってなかった」

ノムさんはマギーを優しく膝から降ろした。

「どっかに行っちゃったの」

「マギーは知らないの」

マギーは自由に部屋の中を歩き回っている。

ダンスでもするように。

「あたしはユキ」

「おかしいでしょう、この名前」

「姉はエルキー・ブルックスのエルキーだし」

「妹はマギー・メイのマギー」

ユキはそう言った後、

こちらの反応のなさに微笑む。

「エルキー・ブルックスはロックシンガー」

「ソウル・シャウターのダイナマイト・レディ」

そう言えば、婆さんがそんなこと言ってた。

「マギー・メイはロッド・スチュワートの曲の名前」

「お婆ちゃんは、ロッド・スチュワートが大好きで」

「でも、ロッドはアトランティックを越えて消えちゃったの」

「マギー・メイはお婆ちゃんが大好きな曲」

ユキはやけに楽しそうに話をしている。

ノムさんはマグカップにお湯を注いで、

ココアを作っている。

「マギーはお姉ちゃん見てもわからなかも」

「マギー小さかったから。でも、いい匂いがした」

そう言って、マギーはフラフラとノムさんの所に戻って、

ココアの匂いを嗅いでいる。

「ミルクは」

「入れる」

「粉の奴でいいか」

「いいよ」

「砂糖は」

「いい」

「入れなくて、ちょうどいい」

「そうか、よくわかるな」

「匂いでわかる」

「大したもんだ」

ノムさんは、うれしそうにマギーの頭をなでる。

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