Ⅲ ナイト・スウィーパーズ5

フロアには人がまばらに立ち、

最前列だけがやたらに盛り上がっている。

この前と変わりない。

そう言えば、彼女たちの前のバンドがどんなバンドだったのか

全然覚えていない。

フロアにエルキーはいなかった。

しばらくステージを見ていた。

ステージの上では、

女性のヴォーカルが思い入れたっぷりに

朗々と歌い上げている。

じっくり耳を傾けるような曲なのに。

最前列の男たちの盛り上がりがうすら寒く思えた。

急に腕をとられ、ドリンク・カウンターへ連れていかれる。

「ラム・コークふたつ」

エルキーだった。

「マギーのお姉さん」

「そうだよ」

「エルキーさん」

「あれ、あたし言ってなかった」

「言ってない」

「それより、どうして今日のライブわかった」

「この前のライブの後、外でチラシをもらった」

そのチラシをエルキーに見せる。

「フライヤーか」

「誰が配ってた」

「女の子だよ、かわいい子」

「そうか」

「マネージャーなの」

「そんなもんはいない。と思う」

「そう言えば、婆ちゃんがアイアン何とかじゃないって言ってた」

「キャプテン・ビヨンドとか言ったか」

「たぶんそう」

「婆さんは、オルガンが入る前しか知らないんだ」

「オルガンが入ったら、アイアン・バタフライだよ」

この前の丸テーブルに移動すると、

ナイト・スウィーパーズのライブがはじまった。

ステージ上は暗くてよく見えない。

照明がチカチカしながら、グルグル回っている。

よくこんなんで、演奏できるなあ。

メンバーは黙々と楽器と格闘している。

ヴォーカルは轟音にかき消されてよく聞き取れない。

「随分熱心に聞いてるな」

「ドラムって難しい」

エルキーがこっちを見て笑った。

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