Ⅲ ナイト・スウィーパーズ4

「そうか、Nはエルキーじゃなかったか」

「あのおっさん、何を教えてくれたんだか」

「でも、間違いってわけでもなさそうだ」

ノムさんは、熱いコーヒーをマグカップに注ぐ。

「窃盗かなんかで、引っ張られたのかも」

「スリも窃盗ですよね」

「まあ、腕は良くないって言ってましたけど」

ノムさんが、戸棚からもうひとつマグカップを取り出す。

「今日は、マギーちゃんは」

「別にいつも一緒にいるわけじゃないですよ」

ノムさんは、ニヤついた後ポンチョを見た。

「こいつはたまたま近くで会っただけで」

「勝手についてきたんです」

ノムさんは、ポンチョの前にコーヒーを注いだマグカップを置いた。

「ミルクはいるかい。粉だけど」

「いただきます」

ポンチョがこっちを見てにっこり笑う。

ノムさんが、スティックのミルクをポンチョに渡す。

「かき混ぜなくても、そのうち溶ける」

「あせるな」

「はい」

ポンチョはミルクを入れた後、

カップの中のコーヒーをじっと見ている。

「お嬢ちゃんも、バンドやってるんだろう」

「活動中止中です」

「ドラマーが親に監禁されちゃって」

「それであんたも逃げたのか」

「それもありますけど」

「重たいんです。父親の愛が」

「なんか、身につまされるなあ」

ポンチョを見て、ノムさんが言う。

「おじさんもいるんですか、娘さん」

「いや、いたら溺愛するだろうなって」

「男親ってみんなそうなのかなあ」

「あんたみたいに可愛ければなおさらだ」

ポンチョがニヤリと笑う。

「もういいだろう」

「飲めますか」

マグカップを覗き込む、ポンチョ。

マグカップを持ち上げて、ゆっくり口を近づける。

「お前、ドラム叩けないか」

突然、ノムさんがこっちを見た。

「えっ、叩けるんですか」

「タイコは男の人がいいんですよ、パワーあるし」

「ガールズバンドじゃなくなっちゃうぞ」

「こだわりません。アニメだったら絶対NGですけど」

「お前本当に、叩けるのか」

「叩けないですよ」

こっちを見た後、ポンチョを見るノムさん。

ポンチョに見られてる。

またポンチョに食いつかれてしまった。

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