Ⅲ ナイト・スウィーパーズ2
「ジン・トニック」
「あたしは、ラム・コーク」
ドリンク・カウンターにいると、
こっちを見ていた女の子が隣に立っている。
「見かけない顔ね」
「初めてだからね、ここに来たの」
「そうなんだ」
「誰を見に来たの」
「誰ってわけじゃないけど、帽子にマントのバンドを」
「へえ、吸い寄せられたんだ」
「そんなんじゃないよ」
「一度会ったことがあるような気がして」
「へえ、誰だろう」
「知らないよ、よく覚えてないんだ」
女の子はニヤニヤしながら、さっきのテーブルに歩いて行く。
「早く来て、彼女たちはじまるよ」
ステージの上は、バンドの入れ替え中のようだ。
「前に行かないの」
「いいのよ、あの人たちに任せておけば」
ステージの最前列には、
男たちがひしめいている。
どっから沸いて来たのか。
「人気あるんだよ、あの子たち」
「ヘビメタ」
「ちょっと違うかな」
「ハードロック。アイアン・バタフライみたいな」
無意識に女の子の顔をじっと見ていた。
「知らないんだ」
女の子の不敵な笑み。
「60年代末のサイケなバンド」
「60年代って1960年代」
「何言ってるの、それ以外ないじゃない」
「そうだよね」
「サイケはサイケデリック」
「よくわからないな」
「わからなくていいの、感じて」
轟音の中に包まれる。
歪んだギターの音。
天井をはい回るようなオルガンの音。
深く沈み込みながら、動き回るベース音。
せわしなくリズムを刻むドラムス。
「ねえ、いいでしょう」
女の子が蛇のように絡みついてくる。
おっと。いいのかな。
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