Ⅱ ポンチョ1

駅を降りて、商店街へ続く道を歩く。

普段ウロついている街と違って、

この街は、湿り気と人間の匂いがする。

「ユウタ、久しぶり。コウさん待ってるよ」

餃子屋の前を通ると、フミ姉さんが声をかけてくれた。

ずっと電話無視してたからなあ。

餃子屋の二階の事務所へ、外階段を上がっていく。

「COZYN探偵社」

消えかけそうな、看板の文字。

ドアを開けると、にこやかに笑う男が、

フレンチプレスにお湯を注いでいる。

「喫茶店やっている奴に聞いたんだけど」

コウさんは、こちらを見ずに話している。

「煮沸した水道水が一番いいらしい」

やかんを持ったまま、こっちを向く男。

「ミネラルウォーターじゃなくてね」

「まあ座りなよ」

言われるまま、ソファーに座る。

「忙しい?」

「すいません。仕事ですか」

「大した仕事じゃないんだけどね」

コウさんは、やかんをキッチンに置いて戻ってくる。

「忙しいんならいいんだよ」

「ノムさんの仕事ですか」

「いや、こっちの仕事」

「いまちょっと、人を探していて」

「どんな人」

向かい側のソファーに座ったコウさんは、

興味深そうに、身を乗り出した。

「夢の中に出てきた人なんですけど」

「それは大変だ」

「見かけたんです。というか、寄り添って歩いてた」

「でも、顔を見ようとしたら、もういなくて」

「どんな人」

「女の子なんですけど、帽子とマントの」

「とんがり帽子」

「そうじゃなかったような」

コウさんは立ち上がって、キッチンのテーブルに向かい、

コーヒーをカップに注ぐ。

「こっちも、人探しなんだけどね」

「すいません、どうにも気になっちゃって」

「わかるよ」

「その人を見つけても、別に何があるってわけでもないんですけど」

「でも気になるんだよね。他のことが手につかないぐらい」

コウさんは、コーヒーの乗ったトレーを、ソファーの前のテーブルに置く。

そして、両肘をテーブルにつけて手を組む。

「自分にもあるんだよ。だからよくわかる」

「パンツが気になってね。空き部屋の整理をしたときなんだけどね」

「便利屋の仕事ですか」

「そう、隣の部屋の整理のついでだったんだけど」

「大家さんに気味悪くて、開けられないからって言われて」

コウさんは、トレーのコーヒーを取って、一口飲んだ。

「冷めないうちに」

「はい」

コウさんの視線が気になって、コーヒーカップをうまくつかめない。

「とにかく乾いた部屋でね、生活していた痕跡がないんだよ」

「その中で唯一、湿り気のあるものを見つけたんだ」

「パンツなんですね」

「何の飾りもついてない、白いパンツ」

「女性なんですよね」

「もちろん」

後ろから、誰かが近づいてくる気配を感じた。

「また、パンツの話をしてるの」

フミ姉さんが、餃子の乗った皿をテーブルに置く。

「ユウタは恋をしてるんだよ」

「そんな恋ってわけじゃ」

「人を探してるんだ。そういえばあの人見つかったんだっけ」

「まだ見つかってない」

フミ姉さんは、コウさんの隣に座って微笑んだ。

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