Ⅰ 帽子とマント5

古めかしいロックが流れていた。

リズムに合わせて、腰を振る女の子。

「マギーご機嫌だな」

そう言いながら、男はジャックダニエルズをグラスに注ぐ。

「あんたも飲むかい」

「ウィルキンソンはある」

「そんなものはないさ。ストレートでいきなよ」

男はニヤついたままグラスにウイスキーを注いだ。

注がれた、ウイスキーを一口飲む。

しばらく、ストレートでは飲んでいない。

「美味しくないの」

しかめ面を女の子に見られてしまう。

「大丈夫、慣れてないだけだよ」

「そうなの」

「こいつは、飲むんじゃない、舐めるんだよ」

男はそう言って、ウイスキーを口に含む。

女の子は話している間も、音楽に合わせて腰をくねらせている。

「ハンブル・パイ、知らないのかい」

男の質問に、ゆっくりうなずく。

「それじゃだめだ」

「婆さんとは話せないな」

「婆さんって、スリの師匠かい」

「そう、聞いてるのか」

男は、もう一度ウイスキーを口に含んで、こっちを見た。

「違うのか」

「間違っちゃいねえさ」

男が目を閉じて、微かに笑っている。

「ブルースとリズム&ブルース。あたし好き」

女の子が、身体をゆっくり揺らしながら言う。

ミディアム・スローの曲が始まっていた。

「ロックじゃないのかい」

「ロックだよ。おばあちゃん、ハードロックは嫌いなの」

「ヘビメタ?」

「おばあちゃんの前では、ヘビメタの話はしないで」

「70年代にはヘビメタなんてなかった」

男が口を開いて、こっちを睨む。

「あれは、後付けなんだ。BOCは別だけど」

「BOC?」

「ブルー・オイスター・カルトだよ」

女の子が少し自慢げに言う。

「詳しいんだね」と言うと、にっこり笑った。

「なあ、あんた」

男の顔が近づいてくる。

「エルキーを探してるんだって」

「エルキーって」

「この子の姉さんだよ」

男は女の子の頭を、なでるように触った。

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