Ⅰ 帽子とマント3
ゆっくりと流れていく、川を眺めていた。
コンクリートに自由を奪われてしまった川。
もう、好き勝手に流れを変えられない。
唯一出来ることは、コンクリートの縁から、
溢れ出ることだけ。
水面は、すでに地面より高くなっている。
「タバコあるかな」
気がつくと、ホームレスらしき男が隣に立っていた。
「ありますよ」
「メンソールじゃないよな」
「違いますよ」
「なんかね。メンソールは」
差し出されたたばこの箱から、
男はタバコを一本抜き出した。
「一本でいいんですか」
「いいんだよ、一本で」
男は、くたびれて変色したドカジャンのポケットから、
ライターを取り出して、タバコに火をつける。
「吸いたいときに一本だけあれば、それでいい」
「そうですか」
男に借りたライターでつけたタバコの煙が、
川の上を一瞬だけ漂い、消えていく。
「兄さん暇だろう、ついて来な」
タバコをふかしながら、
男が通りのほうに歩いて行く。
そっちにも、ブルーシートがあるのかな。
大通りの前で信号待ちをして、
早足で通りを渡っていく。
男は振り向かなかった。
別の方向に歩き始めたら気づくのだろうか。
「ちゃんとついて来なよ」
男は前を向いたまま、
雑踏の音にかき消されないほどの大声を上げた。
そんなに大声出さないでくださいよ。
歩く速度を少し上げて、男の背中にくっつくように歩く。
男は人通りのない通りに入った。
使われなくなった廃ビルのような建物が並んでいる。
男はその中の一つに入っていく。
ビルに入る前に、辺りを見回してみた。
曇った空がぐるぐる回っている。
スタスタと階段を上がっていく男。
階段を上がりきったところで、
男は振り返って下を見た。
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