第18話

「マスターや、終わったぞ。悪魔かと思ったけど邪神化させられてた地方神っぽい。」


「お疲れ様、思ったより早くて助かったよ。娘の相手、お願いできる?」


「ん、聞こえないな。なんか言ったか。」


俺は敢えて聞こえないフリをした。何故ならすぐそこにマスターの娘の綾香が顔を真っ赤にしてマスターをにらみつけていたからである。


「そうだよお父さんもう夜遅いんだしイグアスさんに迷惑かけちゃだめだよ。それに今日は愛理ちゃんが待っているんだしさ。」


「え、愛理?」


今度は俺が驚く番だった。もうすでに10時を超えているため帰っていると思っていたのだがどうやらもっと俺と話したいことがあるらしい。


「そういうわけだからイグアスさん愛理を送ってあげてよね。」


「綾香が我慢するとは明日は嵐かな。」


「おーとーうーさーん!!もう口きかないわよ。」


そんな話を聞いているうちに地下室から移動する気配を感じた。


「あーその前にマスター、アレはどうするか聞かないとダメだな。」


「ああ、例の邪神化か。けれども聞いた感じだと女性神なんだろう。イグアス君が無理なら従業員として雇うけど。」


「それはあの神の意思次第だろ。」


カチャリと扉が開かれた。


「すみません上着をお返しします。」


山羊の女性神はイグアスの上着を返し白いキルト身に纏っていた。


「差し出がましいのですがもう私に正統な信者はおりません。故に貴方の元へ支えさせて欲しいのですが宜しいでしょうか。貴方の心の内に潜める者達も理解しております。無理でしたら諦め別の道を探します。」


邪神化した殆どの神は精霊信仰の神格化した者が歪みを持ってしまい正統な信者を失い司る者を失って起こる現象なのである。今はイグアスがその呪いを解きある程度神の特性を理解することで自我を保っている。それを継続させるために自分を下位に貶めることで多少の神格が落ちる代わりに死ぬことを許される。


彼女が望んだのはそのことだ。


「とりあえず俺に仕えるならとりあえずはマスター元で働いてくれるか。アンタの言う通り俺はまだ心の病を抱えている。だから同族には嫌悪感を抱くがアンタには抱いていない。」


「では何故。」


「俺、告白されてるんだ。いや、待たせちまっている。」


「え、イグアスさん。告白されてたの、もしかしてミーナさん?」


綾香が話に割り込んできた。


「そうだぞ綾香。知らなかったのか?」


「知らないよ。でも私が告白しても迷惑だよね。」


「迷惑では無いがミーナと同じように答えは待たせちまうぜ。なんせ病が治ってから返事をするって約束だからな。」


「私もそれでもいいから告白はしたってことでいいんだよね。ライバルは大きいけど頑張るわ。」


綾香は嬉しそうに部屋に戻って行った。


「とりあえずの意味は理解しました。確かに私が貴方の傍で仕えるのは都合が悪そうですね。時期を見てお会いしてから再度決めてください。」


「じゃあ名を改めようか。汝、改たな名はアルプス。豊穣の山に連なりし山羊となれ。」


「改神、および貴方の眷属となりました。これからはイグアス様の手足となりましょう。」


白い髪を靡かせた女神は美しく微笑んだ。


そしてマスターは空気となっていた。

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