第17話 作戦計画は突然に
「と、いうわけで。あたし達SZZ団の作戦と方針は定まりました」
ぱちぱちぱち
胸を張って演説するヒマリを、取り巻きの理系連中が拍手で称えた。
俺はまあ、睨まれない程度におざなりに。
「第一段階の作戦目標は東京に飛来する杉花粉の絶滅!」
ヒマリがドン!とホワイトボードに貼られた地図を拳で叩く。
「作戦概要については、ソウタさん説明して」
俺に丸投げか。
まあ、いいか。
「俺たちSZZ団の目的は杉花粉の絶滅です。そのための技術的手段については討議してきましたが、ようやく目処がつきました。具体的にはミナト先生の提唱による杉害虫と遺伝子改造された杉の病気を組み合わせた複合攻撃です。東京付近の杉林は遺伝的多様性に欠けると予想されるため、非常に大きな効果が期待できます」
「じゃあ、作った農薬の出番はないのか?あれ、結構自信策なんだけど…」
農薬開発者のクロキくんがおずおずと手をあげる。
大丈夫。俺は資源を無駄にはしない。当然、活用の場面は考えてある。
「農薬も併用します。農薬で弱ったところへ虫と病気の攻撃はさらに効果が大きくなるでしょう。ポイントを絞って噴霧すれば費用も抑えられます」
「なるほど。例えば人の手が入らない山奥であれば農薬の成分から製造ルートを追うことも難しい、ということですね」
「そうですね。多くの人が気がついたときには手遅れ。火元を探すの困難という状況を作り出すのが理想です。言ってみれば、非常にゆっくり蔓延する山火事のようなものなので」
人目につくと対策される。であれば、人目につかないところで事態を戻れないところまで進めてしまえばいいのだ。
日本人の美徳は現状追認である。災害と見なされればことさらに騒ぎ立てず忍耐する方向に世論は動くだろう。
そもそも杉花粉は人災なのだから人災で打ち消すのだ。
「それなら、ドローンの活躍の場面もあるッスか?」
ドローン開発者のトオノくんの目が輝く。
もちろん。むしろドローンは今回の作戦の要と言ってもいい。
「当然、あります。我々が山に登って虫を放したりしたら怪しいなんてものじゃありません、足がつかないよう山奥の杉に密かに農薬を噴霧し、適切な間隔で標的に虫と病気を放ち防火帯ならぬ放火帯を作るのです。そのために現行ドローンの更なる改良をお願いします」
「だいじょうぶッス。短時間の間虫を飼育して目的地で放つだけなら簡単ッス。その虫が杉の葉を食べるなら杉の葉で駕籠を作って現地で切り離してもいいッス」
「AIで杉の枝をドローンに判別させるとか…夜間飛行させるなら赤外線カメラか何かで重量が増えるのがネックだね」
なるほど。たしかにドローンで足がつかないようにするなら夜間飛行は避けて通れないか。
「いや。カメラは要らないッス。木の枝に落としたかったら…そうっすね…紐か何かが広がって枝に絡みつくようにすればアバウトで構わないし重量も嵩まないッス」
さすがトオノくん。専門が工学系だからか、課題が明確になったときの解決策が具体的だ。
「なるほど。そういえば最近は加速度センサーでもいいのがでているのでありマスね。靴とか時計についているやつでありマスが」
「へえ」
情報系のサガミくんは軍事にも詳しいらしい。
なんでも軍事用でGPS通信が使用できない場合に備えて高精度の加速度センサーで位置情報を推定する機器あり、最近は高価格の時計や登山靴に出始めている、とのこと。
情報オタクは軍事オタク、との俺の偏見がまた一つ強化された。
しかし、それでも情報に価値があるのは間違いない。
「すごいな。現代技術」
「精度とステルスとどちらを取るか、という話ではありますがアバウトに投下しても構わない位置であれば加速度センサー使用の方が飛行コースを隠匿できるメリットがあるでありマスね」
「するとドローンも音を抑えた方がいいか…減音ローターを採用するべきか。いやいっそのこと長距離飛行に向いたエアプレーンタイプで…」
理系男子達の間で、突然にドローンを改造する議論が始まってしまった。
なんというか…理系だなあ。
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