第4話 怪しいキカイ
「いやいやいやいや。駄目でしょう、それ」
さすがに突っ込まざるを得ない。
認可されていないクスリを使うとか。
「駄目な理由は?」
「だって違法でしょ。たぶん」
「実験に使う分には合法よ」
そう言われると弱い。
たしかに実験室であれば平気な気がする。
「とりあえず大学の杉は72時間で枯死することを確認したわ」
「確認すんな!っていうか外で使うなよ!」
野外実験だもの、と屁理屈をこねるヒマリ。
駄目だ。やはりこいつらは頭おかしい。
「あたし達だって苦渋の決断だったのよ。使ってみるまでは本当に枯れるかわからなかったし。対象は慎重に選んだわ」
「ほう。慎重にとは」
「具体的には、監視カメラに映らないように変装して人混みに紛れて少しずつ撒いたの。飲み物を捨てるふりとかして。携帯電話は全て電源を落としていたし学生証も持っていなかったからGPSやRFIDから追っかけることもできないはずよ。近くには教室で拾った適当な学生の髪の毛と杉の害虫も落としておいたからDNA検査されても大丈夫」
なんだその無駄に小知恵がまわる感じは。
そんなので隠蔽できるのか。
「それが去年の話よ」
隠蔽されてる!完全に!!大学しっかりして!
「でもね。この方法じゃ杉を滅ぼすことはできないわ。時間と費用がかかりすぎるし、身バレのリスクもある。あたし達は杉花粉を滅ぼすために杉を滅ぼしたいのであって、犯罪者になりたいわけじゃない。こちらは完全に安全な状況で杉が花粉を飛ばせずに枯れていくのを見守りたいの。技術の力で!」
すごく最低のことを力強く言いきって、ヒマリは微笑んだ。
「それでね。あたし達は別のアプローチを取ることにしたの」
別のアプローチ。嫌な予感しかしない。
「トオノくん!」
名指しされてクロキくんと入れ替わりにやってくるトオノくん。
なんだか噂できくキャバクラのようだ。
もっとも、やってくるのは白衣マスク眼鏡のむさい男だが。
トオノくんは小太りというよりは固太りの背の低い格闘家のような外見で、しかも坊主なものだからちょっと見た目が怖い系だ。
その彼も、さきのクロキくんのように手に機械の固まりを持ってソファーのところまでやってくる。
なんだか女王様か巫女様に呼び出されて供物を差し出す家臣か信者達のようだ。
「これ、オレが作ったんす」
ごちゃっとしたタイヤとプロペラの部品と箱とシリンダーにスマホが埋まった機械。
ゴキブリとかエイリアンとか、禍々しい生命力を感じる機械だ。
「これは…?ちょっとドローンっぽいけど」
「ドローンの一種ね。もう少しいろんなことができるけど。トオノくん、見せてあげて」
無言でトオノくんはうなずくと手元のスマホに何かの指示を入力した、らしい。
「おお、走った!」
ゴキブリドローンはウィーンと低いモーター音を響かせながら走り出した。
「ここからよ」
ヒマリの合図でゴキブリドローンはその場でプロペラを回転させると、なんと飛行したのだ!
「すごい!走れて飛べるドローンか!欲しい!」
男はいつまでたっても男の子なのである。
思い通りに動くガジェットに弱いのだ。つい欲しくなる。
「まだまだよ」
俺の反応に気を良くしたのか、ヒマリの合図でクロキくんはドローンをソファー席の近くの観葉植物まで飛行して滞空させた。
「見てなさい」
シュッシュッ、と音がしてドローンについていたらしい霧吹きから水がかけられる。
「水やりができるってことはね…」
「農薬も撒けるってことか!!」
人がいない場所まで自力走行して潜み、人目を避けてこっそり飛び上がって農薬を撒けるドローン…
あれ、これってかなりやばい代物なのでは?
「ちなみに通信でもきるから遠隔操縦もできるの」
生じた懸念は自慢げなヒマリの声でさらに深刻な方向に上書きされたのだった。
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