第四四話

 サラが城に来て、一ヶ月位経とうとしていた。使用人達は、サラが弱音を吐かず頑張っているのと、変わらず笑顔を見せ、皆に挨拶する姿を見て、次第にサラの見方も少しずつだが、変わっていた。

「ねえ、サラ様って本当はいい人なんじゃない?」

「うん、そうかも。それにステラを怒らせると怖いじゃない?」


ステラも使用人達のリーダーになりつつあった。

「いいかいっ!あんた達、人の見る目を養わなくちゃいけないよ。そうでなきゃ、真実の愛なんて得られないんだよっ!ほら、このパンでも食べて頑張りなっ」

ロビンは隣でニコニコとしている。


「あの夫婦って、なんだかいいよね...サラ様も血は繋がって無いみたいだけど、二人は両親だもんね」

「そうだね....」

サラが、使用人達の近くを通ると

「いつも、ありがとう」と笑顔を向け声をかける。

「い、いえ、めっそうもございませんっ。私どもに礼など、もったいない限りです」

「いいえ、感謝の気持ちは減るものではありませんので....」と言うとサラは通り過ぎる。

「天使?ソフィアの言ってた事は本当かも....」

使用人達は、サラの笑顔にうっとりとしている。


サラは部屋へ戻る。ソフィアが

「本日は、挨拶の夜会ですね」

「そうだね。上手く出来るかな?」

「もちろん大丈夫です。サラ様がとても頑張ってらしたのは、ラッセル王子も良く分かってると思います」

「うん。そうだといいね。ソフィアもありがとう」

「いいえ、私はサラ様が幸せなお顔をされているのが、私の幸せです」

「ソフィアもいい人が出来たら、自分を優先させてね」

ソフィアはカイルの顔が浮かぶが、

「いいえ。サラ様が一番です」

サラは笑顔を向ける。

「そろそろ、用意致しましょう」

初めての夜会という事もあり、ソフィアは気合いを入れて、準備を始める。

「ソフィア、普通でいいのよ」

「そんな訳には行きませんっ。サラ様はお綺麗なので私の腕も鳴りますっ」

サラは、用意されたラズベリー色のドレスに着替え、ふんわりとした栗色の髪が良く映える。薄く化粧を施し、唇は少し艶のある口紅を塗る。

「サラ様、素敵です....」

ソフィアはうっとりとしている。

「ソフィアのおかげよ」

「これで、ラッセル王子も惚れ直しますね」

「そうだと、嬉しいね」

コンコンコン。

「サラ、用意は出来たか?」

「ええ、大丈夫です」

ラッセルは扉を開ける。

「サラ.....」

ラッセルは、サラを見つめ何も言わない。

「ラッセル?どこかおかしかったかしら?」

「はははっ。反対だ。あまりに綺麗だから見とれていたんだ」

「もう、ラッセルったら」

「あまり、皆にお披露目したくないな...」

「バカな事言わないで」

ラッセルはサラに近付き、腰を引き寄せる。

「きゃっ」

「大丈夫だ。俺はサラを離す訳ないだろ」

「ビックリするじゃない」

「キスしていいか?」

「ダメだよ。化粧したばかりなんだから」

「そうか、じゃあ後でな」

「うん....」

サラは恥ずかしそうに俯く。

ソフィアは二人を微笑みながら見つめる。


「それでは、サラ姫行きますか」

サラは、ラッセルの腕を取り、会場へと向かった。


ゆっくりと扉を開けると、沢山の貴族達がひしめき合っていた。サラは緊張しているのか、ラッセルの腕を強く握る。

「サラ、大丈夫だ。俺がついてる」

ラッセルはサラを見つめる。サラは頷くと、二人は会場に入る。一斉にラッセルとサラに注目が集まる。

「なんと、お綺麗な....」

貴族達からそんな声が聞こえる。サラは精一杯笑顔を作る。ラッセルはサラのそんな様子を見て、頭にキスを落とす。

「ラッセル?」

「いつも通りのサラでいいんだ」

サラは、力が入っていた事に気付き、ふわっと笑う。

「おお~」

紳士達のどよめきが起こる。

「あまり、見せたくないな....」

「バカな事いわないで」

ラッセルとサラは、指定の席へと座る。

すると、隣国の王子がラッセルへ挨拶をしに来る。

「ラッセル王子、婚約おめでとうございます。ご招待頂きありがとうございます」

「フィン王子、わざわざ、遠い所からお越し頂きありがとうございます」

フィン王子は、隣国からやって来た。父の代からの付き合いで、平和の条約を結んでいる。フィンは、ラッセルともそんなに年も変わらず、次期王になる予定だ。幼い頃から、何か式典があると顔を合わせている。

「それにしても、ラッセル王子の婚約者様は、お綺麗だ。会場にいるどの令嬢よりも輝いて見えますね」

「サラ・レベッカ・ベルと申します。本日はお越し頂きありがとうございます」

サラは微笑みながら、お辞儀をする。

「ほぉ~、なんと」

フィンは興味津々なようだ。

「フィン王子も、婚約したとか」

「ええ、そうですがね。私の場合は許嫁でしてね。自分では選ぶ事も出来なかった。二人が羨ましく見えます。サラ様とはどういった出会いで?」

「私が、困難な時に、ラッセル王子が助けてくれたのです」

「それは興味深い」

侍女がワインを持って来るが、サラの目の前でつまずいてしまう。

サラは、あっと声を上げるが、グラスは床に落ち割れてしまった。

「も、申し訳ございませんっ」

会場は静まり帰る。サラは侍女の手を取り

「あなたこそケガは無い?」

侍女に微笑みを向ける。

サラは割れたグラスを拾おうとするが

「サラ様、私がやりますのでっ」

「あなたも、あまり、気にしないで。物はいつかは壊れるのだから」

「サラ様....」

侍女は深々とお辞儀をし、割れたグラスをかたずけ下がっていく。

ラッセルはその様子を見て、目を細める。フィンもサラに釘付けになる。


「それでは、私はこの辺で」

「ええ、ゆっくりして行って下さい」

フィンは挨拶が終ると、会場の中へと戻る。

「オリー見たか?サラと言ったな。まだ婚約しかしてないんだよな」

「ええそうですが....フィン王子、ダメですよ。条約が破棄されてしまいます」

「かまうもんか。それは、父の代の話しだ。サラが俺を選べばいいんだ」

オリーは、また、フィン王子の悪い癖が出た。とため息を付いたのだった。

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