第四三話

 アーサー王との挨拶も終わり、部屋へ戻りのんびりしていると、ステラとロビンが部屋へやって来る。

「お母さん、お父さん今着いたんだね」

「ちょっと前に到着したよ。それにしても、広い部屋だね~」

「こんなに広く無くてもいいんだけどね」

「そんな訳にはいかないだろ。未来の王妃様なんだから。お母さん達の部屋は?」

「城に離れがあってね、そこに広~いキッチンも付いてて、パンを焼くオーブンまであるんだよ。まるで私達が来る前提みたいにさ」ステラはラッセルを見た。

「偶然だろ?」

「そうなのかい?」

「私もそっちに行こうかな....」

「ダメだ。サラはここだっ」

ラッセルはサラを抱きしめる。

「冗談です。もう、ラッセルったら....」

「はい。はい。仲が宜しい事で」


コンコンコン。

「サラ様、ドレスの寸法を測りたいのですが」

ソフィアから声がかかる。

「ちょっと、行って来るね」

と皆に告げると、部屋を出る。サラが居なくなったのを確認するとステラが

「ちょっと、ラッセル王子、ここの使用人達はなんだい?挨拶してもまるっきり無視するんだけど、いったいどうなってるんだよ」

ラッセルはため息をつき

「やはり、そうか、サラの前の事件がな、ちょっとした噂になってるようなんだ。使用人達にはきつく注意したんだけどな。また言っておく」

「成る程ね。皆サラと接するようになれば、あの子がどんな子か分かるんだけどね。困ったもんだ。でも私だって容赦しないからね」

「お手柔らかにな。大事になるなら俺がなんとかするからステラも相談してくれ」

「分かったよ。じゃあ、私達は部屋へ戻るから」

「ああ。後でな」

ステラとロビンは部屋を出て離れに向かう。

「そう簡単にはいかないのか....」

ラッセルはため息をついた。


サラが部屋へ戻ってきた。

「サラ、明日からなんだがな、妃教育が始まる。大丈夫か?疲れているならもう少し先でもいいぞ」

「大丈夫だよ。それにお披露目の夜会だってあるんでしょ」

「ああ、そうなんだ。隣国の王子も招待するんだ」

「じゃあ、早く妃教育しないとっ」

「そんなに堅苦しいもんじゃない。交遊関係を維持する為の挨拶みたいなもんだ」

「でも....」

「サラは俺の隣で笑ってくれてたらいい」

「分かった。だけど、私お飾りの妃になんてならないからね?」

ラッセルは驚いてサラを見る。

「私は、きちんと自分でラッセルの隣に立ちたいの。何も知らないで、ラッセルを助けられないなんて嫌」

ラッセルは目を細め

「俺の言い方が悪かったな」

サラの頭を優しく撫でる。

「もちろん、サラにも一緒に頑張ってもらうぞ。父上も今は動けないからな。忙しくなるぞ?」

「はい、分かってます」

ラッセルはサラに笑いかけた。


次の日になり、妃教育が始まる。王国の歴史に、ダンス、マナー、裁縫など朝からぎっしりと予定が入っている。それでもサラは文句一つ言わず、黙々とこなしていく。

休憩時間になり、ラッセルが様子を見に来る。

「サラ、大丈夫か?」

「これくらい、大丈夫っ!今まで何もやらせて貰えなかったから。だから楽しくてしょうがないの」

サラが笑顔を見せる。サラの楽しそうな顔を見ていると、ラッセルも

「そうか。ならいいんだ」と笑顔を向ける。

ソフィアもサラの専属の侍女になったようで

「サラ様、あまり、はりきりませんように」と心配している。

「はい。ありがとうございます」とお辞儀をする。

「もう成果が出てるんだな」

サラは妃教育に戻る。


途中、使用人達が、サラが通るとコソコソと何か話しを始めるがサラは気にせず

「ご機嫌よう」と笑顔で挨拶をする。本当は自分が何て言われてるかなんて知っていた。だけどここで逃げ出す訳にはいかない。ソフィアが

「あいつら、サラ様の事、何も知らないくせに...」

「ソフィア、いいの。いつかきっと皆分かってくれる。だから、まずは、目の前にある事をしましょう」

「はい、分かりました....」

ソフィアは悔しそうにするが、サラは笑顔を絶やさないので、ソフィアもぐっとこらえる。

妃教育も終わり、サラは一人部屋へ戻る。相当疲れてるのか、明かりもつけずじっとしている。


ラッセルが執務も終わり部屋へ戻って来て、サラの部屋に入るが、明かりがついていなので心配になり

「サラ、戻ってるのか?」

と声をかける。

「あっ、ラッセル。戻ったんだ」

「なんだ、明かりもつけないで」

「ちょっと考え事してたの。暗くなってたんだね....」

「サラ?どうした?」

「何でも無い...少し疲れただけ」

ラッセルは返事をしない。

「今、明かりをつけるね」

サラがランプに灯りをつけようと立ち上がると、

「サラ、ちょっと待て」

ラッセルは、少し怒った口調でサラに言う。

「ラッセル?」

「サラ、こっちに来い」

「う、うん.....」

サラはラッセルが何で怒っているか分からす、戸惑いながらラッセルの元へ行く。

「俺がごまかせると思っていたのか?何があった」

「何もないよ....」

サラは、ラッセルから離れようとするが、ラッセルに腕を捕まれる。

「サラ、ちゃんと話せ。これから一緒になるんだ。隠し事は無しだと約束した所だろ?」

サラは俯きながら

「皆が私の事、嘲笑っているよに思えて。少し辛かったの....」

「サラの事だから、無理して笑ってたんだな?」

「そうかもしれない....」

「分かった。俺が何とかする」

「それは、やめてっ。自分で何とかしたいのっ」

「だが....」

「いいの。決めたから。それに落ち込むのは今日だけ」

「なら、俺には全部話すんだぞ?」

「うん。約束する」

「じゃあ、今日は俺がサラを甘やかすか」

と言うとラッセルはサラを抱きかかえ、ソファーに座る。

「朝まで?この体勢疲れない?」

「大丈夫だ」

サラは安心して、ラッセルにもたれかかる。

「二人なら、何でも乗り越えられる。だろ?」

「うん....ありがとう」

サラは、ラッセルの温かさに目を閉じるのだった。

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