第三九話
ヒューとサラは岩陰まで行くと、ヒューはラッセルへと姿を変える。
「ラッセル、おめでとう。ルシアさんと婚約したんだってね....」サラはラッセルに笑顔を向ける。
「サラ、お前、俺がルシアと一緒になってもいいと思ってるのか?」
長い沈黙が流れる。そして、サラは深呼吸して
「そんな事思ってる訳無いじゃない......」サラはため息と共に答える。我慢してた涙が一気に溢れ出す。サラは、ラッセルに背中を向ける。
「見ないで。ラッセルの前では笑顔でいようって思ったのに.....」
ラッセルはサラを背中から抱きしめる。
「サラ、すまん。少し意地悪しすぎた。お前が、ルシアと婚約に賛成だと言うから」
ラッセルは、サラを自分に向かせると、サラの目を覗きこみ
「俺は、ルシアとは婚約なんてしない。愛するのはサラだけだ。約束しただろ?」
「だって、周りの人が皆、ラッセルとルシアさんが婚約したって。それにルシアさんも店に来て....」
「ああ、知ってる。それは俺が悪い。サラに何も言わなかった俺が悪いんだ。サラこっちを向いてくれ」
「うん......」
「サラ、俺はお前だけを一生愛すると誓う。俺と結婚してくれるな?」
「でも.....周りの人達が....」
「サラ、もう一度言うぞ。周りなんて関係無い。俺はお前だけしか愛さない。それに周りとは、かたはついた。安心して俺について来てくれないか?だから、サラ俺と結婚してくれ」
「はい....」
ラッセルはサラを抱きしめる。そして、サラの顎を持ち上げ、深くキスをする。
「んっ」名残惜しそうに、口びるを離すと、もう一度軽くキスをする。
「サラ、心配をかけたな」
サラは、ラッセルを見上げ
「本当だよ....もう会えないと思ったんだから」
サラは、ラッセルの胸に顔を埋める。
「俺もだ。サラなら、信じてくれると、甘えていたんだ。ステラにも叱られたよ」
「お母さんから?」
「ああ、そうだ。きちんとするまで、サラの居場所を教えて貰えなかったんだ」
「お母さんらしい」
「それでな、サラに提案なんだが、これから城に住まないか?」
「でも、お母さんとお父さんとも離れたくない」
「明日改めてステラには言おうと思うんだが、ステラとロビンには、城で専属のパンを焼いて貰えないかと思うんだ」
「どうなんだろう?賛成するかな?」
「俺はな、サラだけじゃなくて、二人の事も大切なんだ。呪いにかけられて犬になった時もステラとロビンは俺を大切にしてくれたしな。本当の家族より、絆は強いかもしれない。それにな、ステラとロビンが近くにいる方が、サラも安心だろ?」
「うん。ラッセルありがとう。私も皆と離れたくない」
「ああ、家族は一緒にいるのが一番だ。だろ?」
「あっ、お母さんの口ぐせだね」
二人は、微笑み合う。ラッセルはサラの手を握ると
「サラの手だ。久しぶりだな」
ふふふ。とサラは笑う。二人は夕暮れの浜辺を歩く。
「私ね、ラッセルとこうして二人で海を歩きたかったの。ずっと一人で眺めてるとね、海に吸い込まれそうになるんだよ」
「おい、サラやめてくれよ。海に身を投げるなんてな」
「まさか、そんな事しないよ。お母さんもお父さんも心配するもん。それにね、ハリーさんともたまに海に来たんだよ」
「叔父上とか?それは妬けるな....」
「えっ?叔父上って?」
「ハリー叔父上の事だな?叔父上は何も言わなかったのか?」
「うん。俺に任せろって言って、姿が見えないと思っていたんだけど」
「ああ、叔父上には、助けて貰ったんだ」
「実はな.....」ラッセルはサラとの婚約が周りから反対されていたという事をどうしても伝えたくなかった。言えばサラは傷つくから。
「また、秘密なの?私ラッセルが思ってる程弱くないよ。これから結婚するなら、全て話してくれないと、私ラッセルとは結婚出来ない」
「サラが弱いなんて思ってないさ。俺が嫌だったんだ。サラの良さを分からない奴らがいる事がな」
「ラッセルありがとう。周りから反対されているのは何となく気付いていたから。だって普通、問題だらけの伯爵令嬢なんて誰も賛成しないでしょ?」
「そうかもしれないがな。婚約さえも自分で決められない自分の情けなさも嫌だったんだ」
「でも、また私の為に頑張ってくれたんでしょ?」
「そんな事、サラを失う事とは、比べものにならない。今回サラと離れて、どれだけ俺にとってサラが大切か分かった」
「私も。ラッセルが婚約したって聞いて胸が張り裂けそうだった。もうどこにも行かないで」
「ああ、約束する」
ラッセルはサラを引き寄せ、腕に閉じ込める。
「ラッセル、私も、愛している」
二人は見つめ合い、ゆっくりとお互いに顔が近づき、長いキスをした。
「サラ、そろそろ帰るか」
「ラッセルはどうするの?」
「もちろん、サラと一緒にいるさ」
人もまばらになった海岸でラッセルはヒューに姿を変える。
「これで、一緒に寝れるだろ?」
「うんっ、そうだね」サラはヒューを抱きしめると
「やっぱり、ヒューも大好きっ」
「俺が俺に焼きもちってなんだかな.....」
不思議そうな顔で、サラは首を傾げる。
「なんでもない。独り言だ....」
二人は、シーズへ帰る道を歩き出すのだった。
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