第三七話
サラとルシアを選ぶ議会が間も無く始まろうとしている。
「カイル、大変だったが、何とか半数以上は同意を得られそうだな」
「はい、これで何とかなりそうですね」
「これも、お前のお陰だ」
「いえ、ラッセル王子の頑張りです」
「では、行くぞっ」
ラッセルは、重たい扉をゆっくりと開ける。
各大臣達が一斉にラッセルを見る。ウィリアムが
「お待ちしておりました。では、早速始めましょう」
「ああ」ラッセルは笑みを浮かべる。
「ラッセル王子、挙手という事でかまいませんか?」
「問題ない」
ウィリアムが、進行を始める。
「皆様、ラッセル王子の婚約の相手を多数決で決めたいと思います。まずは、家の娘ルシアがいいと思う方挙手お願い致します」
ウィリアムはニヤニヤしながら、皆を見る。
一人一人手があがり、4人目。ラッセルはこれで終わりだな。と思うが、五人目の手が上がる。
「何っ」ラッセルは目を疑う。
「あなたはっ」最後に許諾を得た大臣だった。
「ラッセル王子、スミマセン......」大臣は目を伏せる。
「私を入れて過半数ですね。これで私の娘が正式な婚約者という事で宜しいですね」
「ちょっと、待てっ!」
「残念ながら、これが現実です」
ウィリアムは、勝ち誇った顔をしている。
「ウィリアム、お前は自分の娘が愛の無い結婚をしても良いと言うのかっ」
「ははははっ、何を青臭い事を。ラッセル王子、愛など何の足しにもなりませんよ。強い者が、世の中を支配していくのです。あなたも王になるなら、いつまでもそんな事はおっしゃらないで頂きたい。私の娘と結婚すれば、全員があなたの味方ですよ」
「ウィリアム、お前....」ラッセルは立ち上がり皆の顔を見渡す。
「そうか、ここにいる者全員そうなのだな?」
大臣達は、顔を背ける。
「良く、分かった。それなら、俺は」王位継承権を破棄する。と言いかけた時、ゆっくりと扉が開いた。
そこには正装をしたハリーが立っていた。
「ウィリアム、久しぶりだな」
「ハリー兄さんっ、何故今ここにっ」
ウィリアムは、驚きを隠せない。
「話しは聞いていたぞ。お前らしいな。何も変わっていないな.....」
「兄さんこそ、家を捨てたのではないですか?」
「確かに、ずっと逃げていたのは事実だ。だが残念だったな。俺はまだ公爵の位は残っているんだ」
「それが何になるのですか」
「ウィリアム、私は、ある町でとても心優しい娘に出会ったんだ。その娘はな、好きな人がいるが、その人には自分は相応しく無いと、自分の心を殺して泣いていたよ。まるで俺とジュディみたいにな....」
「まだあの時の事を根に持っているのですか?もう何十年も前の話しではありませんか。それにあれはあの女が誘ってきたんだ」
ハリーは、静かにウィリアムを見つめ、腰に差してある剣を抜く。そしてウィリアムの鼻先に剣を向ける。
「な、何をっ、私をこ、殺しても、あなたが罪に問われるだけですよ」
「果たして、そうか?」ハリーはラッセルを見る。
「あなたは、確か、父の弟。ハリー叔父上ですか?」
ハリーは剣をおさめる。ウィリアムはほっとした顔をする。
「ああ、ラッセル王子大きくなったな。俺はな、サラちゃんと約束したんだ」
「サラは元気にしてるんですかっ」
「一生懸命、気丈にふるまって頑張ってたよ。そんな姿を見てたらな、俺も逃げてばかりの生活は終わりにしようと思ってな」
「そうですか.....」ラッセルはその話しを聞き決意を決めて、皆を見る。そして
「もう一度、聞きたい。俺は今力は無い。だが必ず父を越える。そして皆にも市民にも喜びがある国にしていく。必ず今ある議会を公平なものとする。だから信じて俺についてきてくれないか?」
皆がラッセルの声に耳を傾ける。ハリーも続けて
「ウィリアムから中には買収さるている者もいるだろう。だがな、その事はいつか明るみに出るだろう」
ラッセルは、
「もう一度、私に賛成をする者、挙手をお願いしたい」
と言うと、一人、二人と手が上がる。そして最後にハリーが手をあげる。全部で7人。ウィリアムが
「何っ、お前達、今まであんなに良くしてやったのに裏切るつもりかっ」ウィリアムが大声で怒鳴りつける。
「ウィリアム、みっとも無い事をするな。これが現実だ。お前が言ったんだろ?」
カイルが部屋へ入って来る
「ラッセル王子、ウィリアム殿の不正の事実がありましたっ」カイルはウィリアムが用意したであろう契約書を渡す。それには、ウィリアムに賛成をしたら、これからの地位の約束と、市民への税金の引き上げ、そして多額なワイロが支払われている書面であった。
「きさま、何故それをっ」ウィリアムはカイルを睨みつける。
「黙れっ!ウィリアム、もうお前の好き勝手させないぞ。今私に挙手しなかった者、そしてウィリアム、追って処分を決める。分かったなっ!」ウィリアムはその場で膝を付き、頭を抱える。
「これで、今日の議会を終了するっ」ラッセルは終わりを告げ、そして部屋を後にするのだった。
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