第三六話

 ヒューは、店を出ると、急いで城へ戻る。

「カイル、街の様子はどうだった?」

「それが....ルシア様と婚約しているという噂は、市民にも広まっております」

「やはり、そうか。サラの耳にも入っているか」

「ええ。そうかと思います。それで、サラ様には会えたのですか?」

「いや、サラはいなかった....」

「どちらに行かれたのですか?」

「分からない。ステラは教えてくれなかった。俺が迎えにこれるまでは教えないと」

「そうですか」

「もう一人でいいんだ。何とか味方が欲しい」

「ラッセル王子、私、一人思い当たる大臣がおりますので、行って参ります」

「いや、俺も行く。大切な事だからな」

「では、急ぎましょうっ」

カイルとラッセルは大臣の領地へと向かった。


なんとか大臣を説得し、ラッセル側についてくれるとの了承を得た。

「カイル、やったな。これで6人だ。ギリギリだが、こちらが優勢だ。もうこれ以上、サラを待たせる事は出来ない」

「そうですね。すぐにでも議会を開きましょう」

「ああ、そうだな」

ラッセルは、大臣達に召集をかける。

「サラ、もうすぐだ」と言って椅子に座り目を閉じた。


ラッセルは、部屋へと戻ると

「ラッセル王子、いらっしゃいますか?」とルシアが尋ねて来た。

「ああ」と不機嫌に答えると、ルシアが部屋へ入って来る。

「なんだ?」

「この間、突然、どこかに行かれてしまわれたので、心配で」

「お前が、俺の何を心配するというのだ?」

「まあ、私が心配してはダメですの?これから夫婦になるというのに」

ラッセルは我慢も限界になり

「ルシア、俺はお前を妻にするつもりはない」

「まあ、ご冗談を」

「今は、周りから反対されているから、言わなかったが俺は、サラを愛している」

「あの、貧相な娘をですか?」

「何故、知っている?まさか、会いに行ったんじゃ無いだろうな?」ラッセルは知っていたが、わざと聞く。

「ダメでしたの?」ルシアはしれっと答える。

「サラに何か言ったのか?」

「いえ、私、ラッセル王子の婚約者です。と伝えただけですわよ?あの娘、何も言い返しませんでしたわ。それはそうですわよね、私の方が綺麗で、身分も高いんですもの。あんな娘よりも、私の方がラッセル王子の妻に相応しいと核心致しました」

「なんて事を....ルシアお前は本当に幼い頃から何も変わってないんだな」

「誉めて下さっているのかしら?」

ラッセルは、ルシアを睨み付け

「俺は、お前だけは、愛さない。もう出ていけ、俺に顔を見せるな」

ルシアはわなわなと震え

「この事は、お父様に報告致します。私はなんとしても、ラッセル王子と婚約いたしますので、覚悟しておいて下さいませ」そういい放つと、ルシアは部屋から出て行った。ラッセルは、

「サラ、早く会いたい.....」と深くため息を着いたのだった。


ルシアと父ウィリアムは

「お父様、私ラッセル王子の妻になれますの?昨日ラッセル王子は、私の事を愛さないと言ったのですよ?あんな貧相な娘を愛してるとおっしゃったのです」

「何も心配ない。ルシア。お前は私の娘だ。誰よりも綺麗だ。愛なんて無くとも、必ずお前をラッセル王子の妻にする。そしてゆくゆくは、この国の王妃になるんだ」

「ええ。お父様」と二人はほくそ笑むのだった。


その頃ハリーは、何か準備をし始め、客人だろうか、誰かと話しをしている。

「スタンか、久しぶりだな。」

「ええ、ハリー様もお変わり無く」スタンは涙ながらに答える。

「お互い、歳をとったな....」

「ええ、そうですね。私はハリー様はいつか戻っていらっしゃると信じていました」

「それで、今、兄はどうなのだ」

「あまり、様態が思わしくありません」

「そうか、それでウィリアムが娘をラッセル王子と結婚させ、国を自由にしようとしているのだな?」

「ええそのようです。まだラッセル王子も大臣達には逆らえないようで」

「ああ、なんとなく察している。スタン俺の籍はまだ残っているな」

「もちろんでございます。私はハリー様が戻っていらっしゃるまで、なんとかロッド公爵家だけは守りました」

「スタン、すまなかった....」

「いいんです。私もあの時、ハリー様の心を支えて差し上げられませんでしたから。ハリー様が出て行かれた時も止める事が出来なかった」

「それで、ジュディは、幸せになっているんだろか...」

ハリーは遠い昔しの事を今のように思い出す。


ハリーとジュディは、身分違いの恋だった。ハリーは王家の次男で、現在の陛下の弟だ。そしてウィリアムは三男であった。ハリーは侍女と恋に落ちた。ハリーは、特に野望などは無く王位など興味は無かった。三男のウィリアムは、王位を欲していたらしいが、現王アーサーとは違い全く人望が無かった為、結局王にはなれなかった。


「ジュディ、俺は、家を捨ててもいいんだ。こんな汚い世界、興味は無いんだ。二人でのんびりどこかで暮らさないか?」

「ハリー様、私はあなたを愛しております。ですが、ハリー様に家を捨てろなとどは言えません」

「ジュディ、俺がお前を守る。他に何もいらないんだ」

「ありがとうございます.....」ハリーはジュディを抱きしめる。しかし、次の日ジュディは、城から姿を消した。ウィリアムが言うには、金を渡したら、喜んで出て行ったと言っていた。ハリーは信じられず、ジュディの部屋へ行くと、二人の秘密の場所に、手紙とお金が置いてあった。

『愛するハリー様。ハリー様が私を愛してくれた事大変嬉しかった。もう人生でこれ以上幸せな事は無いでしょう。私はその思い出を持って生きていきます。汚れた私の事などは忘れて、どうかお幸せに....」手紙には涙の跡がついていた。

汚れた?まさかっ!ウィリアムに手紙と金を見せると、ウィリアムはにやつきながら、

「あの女、喜んで腰を振っていたよ」ハリーはウィリアムに金を投げつけると、手紙を握りしめ、城を出て行ったのだった。


ハリーは

「もう二度と、あんな思いを誰かにさせる事は出来ない.....」と拳をきつく握ったのだった。

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