第三五話
サラは、早速トーマスの定食屋の手伝いを始める。
「サラちゃん、注文いいかい?今日も可愛いね」
「ありがとうございます」とニコッと笑うと、お客の皆は目尻が下がっている。
「トーマスにこんな可愛い姪っ子がいたとはな」
とサラは、シーズの看板娘になりつつある。パン屋とは違った忙しさがあり、悩む暇なんて無いくらい忙しい。ハリーが店に訪れる。最近は毎日顔を出してくれるので、サラとも仲良くなっていた。
「ハリーさん。今日は何にしますか?足は良くなりましたか?」
「ああ、お陰様で良くなったよ。いつもの定食くれるかな」
「はい。かしこまりました」サラはハリーをいつもの席に案内する。
すると、お客の一人が
「王が倒れたんだって?それに、ラッセル王子が婚約したんだとか。俺達にゃ、あまり関係ないけどさ。ちゃんといい国にしてくれればいいよな」
サラの動きが止まる。
「サラちゃん、どうしたんだい?ラッセル王子のファンだったか?」
「いいえ、何でもありません。ファンと言うか、応援してます」
「そうか、ラッセル王子、格好いいもんな~」
サラは、
「そうですね。とても誠実な方なんですよ。きっと良い国にしてくれるはずです」と微笑む。
ハリーはその様子をじっと見ている。ハリーがサラに
「なあ、サラちゃん、休憩になったら、買い物に付き合ってくれないか?」
「買い物ですか?でも、そんなに時間が無いかも知れません」それを聞いていたトーマスが
「いいよ。今日はそのまま上がっても。ハリーに何か買って貰うといい」
「トーマスさんの許可も得たのでお付き合いします」
とサラが返事をすると、お客の一人が
「おっ今度、俺ともデートしてくれよ。サラちゃん」
「お前らは、ダメだっ」とトーマスに叱られてる。
サラはふふふ。と笑うと、店にいる皆の顔が緩むのだった。
ハリーの食事も終わり
「じゃあ、サラちゃん行こうか」と言って二人は店を出る。
「ハリーさん、買い物って何を買うのですか?」
「いや、特に無いけどな」
「えっ」とサラが言うと
「少しな、気晴らしだよ。いつも忙しいだろ?」
「ええ、お気遣い、ありがとうございます」
二人は街をブラブラと歩く。
「サラちゃんは、好きな人はいるのかい?」
「好きな人ですか?」
「ああ、そうだ」
「好きな人って言うよりも、大切な人です。でもその人婚約したみたいです....」
「その人を諦められるのかい?」
「諦めるしかないんです。ずっと近くにいた人で、でも本当はすごく遠い存在の人で。いつかいい思い出になると思うんです。だから彼にも幸せになって貰いたいです」
「そうか。サラちゃんは優しいんだな」
「いいえ、私は、臆病なだけです」
「じゃあ、俺が立候補しようかな?」
「やだ、ハリーさん。お父さんより年上です」
「だな?」と言うと二人は笑い合う。
「ハリーさんはとても素敵な人です。私を元気づけようとしてくれるんですもん」
「俺もな、昔し大切な人がいたんだ。だけどな、周りから反対されてな。その人を守れ無かったんだ。それで何もかも嫌になってな、家を捨てて、ふらふらと旅をしてたんだ。サラちゃんを見てると、その人を思い出すんだ...」
「そうなんですか。それで今も後悔をしているのですか?」
「いや、遠い昔しの話しだよ。でもふと、あの時俺がもっと頑張ればと思う事があるよ。サラちゃんには後悔して欲しくないんだ...つまらない話しをてしまったな」
「いいえ、貴重なお話しありがとうございます。私ももう少し信じて、待ってみようと思います」
「そうか。そしてやってくれ」
二人は、あてもなくブラブラと街を歩く。
大きな白い犬を散歩している人が見えた。
サラは思わず
「ヒュー?」と言って駆け出す。
「サラちゃん?」ハリーもその後を追う。サラは立ち止まり
「そんな訳ないか....」と言って立ち止まる。
ハリーは、サラに肩を手を置いて
「どうしたんだい?サラちゃん」と尋ねる。
「やっぱり、私、諦めたくないっ」ずっと我慢してた気持ちが爆発する。サラは涙が後から後から出てくるが、止める事が出来ない。ハリーはサラをそっと抱きしめると
「よしよし。我慢してたんだね。もう我慢しなくていいよ。サラちゃんは、自分の気持ちを抑える所があるんだね」と言って頭を優しく撫でる。そして
「俺も、この生活は終わりだな。そろそろ表舞台に戻るか。兄さんも倒れたみたいだしな....」と呟く。
ハリーは、サラを見つめ
「いいかい、サラちゃん、決して諦めちゃだめだよ。俺が何とかする」その顔は、シワが刻まれていたがとても紳士的で素敵な笑顔だった。
「ハリーさん?」
「さっ帰るよ」と言うとハリーはサラの手を握り店へ戻るのだった。
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