第二八話

 目を開けると見慣れた森だった。一つ違う事は、ヒューが一緒にいる事だ。ヒューは本当の犬になってしまった。

「ヒュー、ごめんね。私焦って、あなたの信頼が出来る前に、無理に呪いを解こうとしてしまったの。バカだった」ヒューはペロペロとサラの顔を舐める。そして首を傾げながらサラを見上げる。

「決めたわ。私、アンブラと対決する。また失敗するかもしれない。だけど何もしないよりましだわ。ヒュー、行こう」と言ってサラは歩き出す。まずはハンナの屋敷に向かう。


途中パン屋の前まで来ると、立ち止まって

「お母さん、お父さん、行ってくるね」と呟くとまた歩き出す。そしてハンナの屋敷に到着する。


サラがベルを鳴らすと、

「サラ様っ、ラッセル王子っ」と心配して駆けよって来る。ハンナの屋敷にあがると

「サラ様、急に姿が消えるから心配してましたの。私が呪いの事を言い出さなければ」

「いいんです。ハンナさん、私も焦ってましたから」

「それでどちらに?」

「目を開けると、アンブラの屋敷にいました。そしてヒューは本物の獣にされました」

「えっ、なんという事でしょう。ちょっと待って下さい」ハンナは指を鳴らし、ヒューに話せるようにする魔法をかけるが、何度やってもヒューは何も変わらない。

「ダメですわ。申し訳ありません....」

「いいんです。私は、ヒューである事に問題は無いのです。でもラッセル王子の心まで奪うのは許せません」

「サラ様、まさかっアンブラと対決するのですか」

「ええ、私決めました。私が死んだとしてもラッセル王子の心は取り戻します。そして何としても、ラッセル王子を目覚めさせます」

「それでは、意味が無いじゃないですかっ。王子が、目覚めて、あなたがいなかったら、どんなに悲しまれる事か」

「私、本当はとっくにもう死んでいたかもしれ無いんです。それをラッセル王子やお母さん、お父さんが救ってくれたんです。死ぬつもりはありません。でも私より、ラッセル王子は色んな事を背負っています。きっと何があっても立ち直ってくれると思います」サラはそう言うと、微笑んだ。

「サラ様.....」

「私をアンブラの元へ送ってくれますか?」

「ええ、分かりました.....」ステラは指を鳴らす。


サラとヒューはアンブラの部屋に瞬間移動する。

「また、あんかい。懲りないね。それで何か用事かい?」

「ヒューを目覚めさせて....」

「いいのかい?この犬を目覚めさせたら、あんたはここに閉じ込められてしまうんだよ。今度は絶対入ってこれないようにするから、誰も助けに来てくれなんかしないよ?」

「かまいません」

「そう簡単に言うけど、この世界だって閉じるんだから、真っ暗闇だよ?淋しいってもんじゃないよ?」

「ええ....」

「いいよ....そんなにこの犬が大切ならそうしてやろうじゃないか...なんて言うと思うかい?あんたなんて、私にとっちゃ脇役だよ。特には、要らないんだよ」アンブラがサラに手をかざすとサラの体は宙に浮き壁に叩きつけられる。

「うっ...」っと言ってサラは顔を歪める。床に手をつき、なんとか立ち上がる。そしてふらつく体でまたアンブラの近くまで行くと

「私、諦めませんから」と言ってアンブラに詰め寄る。

「しつこい子だね、一回じゃ分からないみたいだね」またアンブラはサラを壁に叩きつける。サラの口から血が滲みだしている。ヒューがサラに駆け寄ると、

くぅ~んと鳴いて、もうやめろと言っているようだ。

「犬も心配してるじゃないか。もう諦めな。私だってあんたを殺したくは無いんだよ?」

「じゃあ、何故私の願いを聞いてくれないのですか!」サラはふらふらになりながら、アンブラの元へ行こうとするが、ガックリと膝をつく。

「物分かりの悪いやつは嫌いなんだよ」

ヒューがサラの頬をペロペロと舐める。

「ありがとう。ヒュー。私は大丈夫よ....あなたを必ず元にもどすから」と笑顔を向ける。

もう一度立ち上がり、アンブラへ近付こうとした時、

「じゃあ、サヨナラだね。お嬢ちゃん」

と言うとアンブラはサラに手をかざす。そして、サラは先程よりも大きな衝撃で壁に打ち付けられる。

その時ヒューが

「やめろ、アンブラ、やめてくれっ」と叫ぶ。

「ヒュー、話せるようになったのね....」サラはヒューの頬をいとおしそうに撫でる。サラの口からは先程より多くの血が流れている。

「サラ、もう、喋るな....」ヒューはサラに口付けをする。すると、ヒューは光を伴いラッセルの姿へと変わる。そのままサラはガックリと意識を失う。


「なんだ、戻っちまったのかい。つまんないね」

ラッセルがサラを抱き上げると、ポケットから鈴とナイフが落ちる。アンブラは

「そ、それはっ、何でここに....」と呟く。

その声をラッセルは聞き逃してなかった。ラッセルはサラを静かに床に下ろすと、ナイフを拾い

「アンブラ、このナイフは俺が刺されたナイフと一緒だな」

「そうだっけ?勘違いじゃないかい?」

「よくも、サラをこんな目にあわせたな....」

「ど、どうするつもりだい?私に勝てるつもりかい?甘いんだよっ」と言うとラッセルに手をかざす。

「そんな事で、俺を倒せると思うなよ。」ラッセルはアンブラの衝撃をまともに受けるがそれでも突き進む。

「アンブラ、俺はお前の攻撃を何回受けようが必ずお前を倒す」

「な、何で効かないんだっ」

「お前が、言ったんだろ?これが、真実の愛だ」

ラッセルはアンブラの元へたどり着くと、アンブラの心臓に一気にナイフを突き立てる。

「うっ....」と言ってアンブラはうずくまると、一瞬笑ったような気がした。アンブラの姿が消えると、世界が揺らぎ始める。ラッセルはサラの元に駆け寄ると、サラを抱きしめる。サラは意識を取り戻し、

「ラッセル王子.....」

「今は、何も話すな....」

ラッセルはサラに口づけ落とすのだった。

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