第二七話

 サラとハンナはヒューの所へと向かう。

「どうやって、近寄ればいいのかしら?」サラが独り言のように呟く。

「確か、もうすぐ、パレードがあるはずでしたわね」

「まだここではパレードは行っていないのですか?」

「ええ、もうすぐあるはずですが、現実世界では、パレードはどうされたのですか?」ハンナがサラに尋ねる。

「ラッセル王子はパレードに出てました。そうだ、ヒューは話せる事が出来て、ハンナさんと知り合いだと言っていました」

「まだこちらには来ていません。これから私の所に来る予定なのかしら。それで私が話せるようにするのかもしれませんね。とにかく、一度ラッセル王子の元へ向かいましょう」サラとハンナはパン屋に到着した。店の前では、ステラが店じまいを初めている。

ハンナが

「あの、そちらに、大きな白い犬のヒュー君いませんか?」ステラは怪しむように

「ヒュー?あんた、ヒューのもと飼い主じゃ無いだろうね。ヒューなら急いでどこかに出掛けちまったよ」

「私、ヒュー君の飼い主ではありません。ただあまりにも立派でしたので。どこに行ったか知りませんか?」

「さあね、パレードの話しをしてたら落ち着きが無くなってどっか行っちゃったよ」

「そうですか.....」


サラほそのやり取りを聞いていると、

「まさかっ、ヒュー、ハンナさんの館に向かったのでは?」

「そうかもしれません。サラ様、戻りますよ」

ハンナが指を鳴らすと、ハンナの屋敷に戻ってくる。外を見ていると、一匹の大きな犬が向かってくるのが見える。

「ヒューですっ。やはりこちらに向かっていますね」

屋敷の前で止まると、ワンワンっと吠えている。ハンナがヒューを部屋へと案内する。サラは部屋の奥へと隠れる。


ヒューは一生懸命、ハンナに語りかける。ハンナは指を鳴らすとヒューは話す事が出来るようになる。

「ハンナ、俺はラッセルなんだ」

「ええ、そのようですね。それで呪いの解き方ですわね?」

「あ、ああ、何故知っているのだ?」

「ラッセル王子、よく思い出して下さい。あなたの呪いはもう解けているのではありませんか?」

「どういう事だ?」

「サラ様が心配してますよ」

「サラを知っているのかっ」

サラが奥の部屋から出てくる。

「ヒュー.....」

「サラっ、店にいたんじゃないのか?」よく見ると髪の毛も短くどことなく雰囲気が違っている。

「お前は、誰だっ!」ヒューは叫ぶ。すると、世界がぐにゃりと曲がり出す。サラは焦りヒューに抱きつく。

「ヒュー、私を見てっ」サラがヒューの顔を持って瞳を覗き込む。しかし、ヒューは戸惑いを隠しきれず曲がった世界のまま暗闇になる。

また暗くなってしまった.....私死んでないのに....早まってしまったのだろうか?


辺りが明るくなると、見たことも無い部屋にいる。

「目が覚めたかい?」聞き覚えのある、嫌な声がした。アンブラだ。

「あなたが何故ここに...」

「私かい、私はあんた達の事ずっと見てたからね。ここに来るのだってたやすい事さ」

「目的は何なのよ。ヒューを何処にやったの」サラはアンブラを睨みつける。

「あんなにか弱そうなお嬢さんだったのにね。目的なんて無いさ。ただの暇潰しだよ」

「酷い、ならヒューを返してよ」

「あんたの所なんて帰りたくないってさ」

「ヒューがそんな事言うわけ無いじゃない。あんたの言葉になんて惑わされないんだから」

「けけけ、そうかい、あんたのナイトならそこにいるよ。出ておいで」アンブラがそう言うと、ガルルル~と唸り声をあげながら、サラに近付いて来る。

「ヒュー、私よ。サラよ」しかし、ヒューには言葉が通じていないようだ。

「アンブラ、あなたヒューに何をしたの?」

「だって、こいつは、犬だろ?本物の獣にしてやっただけさ」

「酷い.....こんな事して何が面白いって言うのよ」

「お嬢ちゃん、私はね、昔、王家に大切な人を奪われてるんだ。そいつらに同じ目、いや、それ以上の苦しみを与えてやるんだ」

「そんな昔の事、ラッセル王子には関係無いじゃない」

「私にとっては、昔の事じゃないのさ」

「お嬢ちゃんには、関係ない事だけどね。このままこの世界で生きればいいさ。ヒューという犬と一緒にさ」サラは、ガックリと膝を着く。失敗したのだ。もうお父さんともお母さんとも会えない。そしてラッセルにも。サラは悲しみに暮れる。


ヒューは首を傾げながらサラを見ている。

「ヒュー?」さっきは、唸り声を上げサラを威嚇してたのだが、心配そうにサラを見ている。

「あははっ、良かったじゃないかい。その犬もあんたを気に入ったってさ。じゃあね、お嬢ちゃん。その犬とうまくおやりよ」と言ってアンブラはヒューとサラに手をかざすと、辺りは、暗闇に包まれた。


そして、目を開けると、そこはいつもの森の中だったのだった。

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