第二六話

 周りが暗くなると、サラはフードを被りすぐに動き出す。そしてボロボロの自分を捕まえると

「これを着て」

と言って、羽織っているストールをサラにかける。

ボロボロのサラは、

「あ、あなた、誰?」と言うが、

「いいの。気にしないで。悪いようにはしないから。いい、絶対負けちゃダメよ。必ず幸せになるから」

「ま、ま、魔法使いなの?」

「ええ、そんな感じ。だから、諦めちゃダメよ」

ボロボロのサラはコクンと頷く。

「さっ、行きなさい」と言うと、サラは茂みに身を隠す。しばらく見ていると、ヒューが現れる。

ボロボロのサラは、ヒューに抱きつくと、暖かさからウトウトとしている。サラはそのまま眠りに落ちる。

月が顔を出し、ラッセルへと姿を変える。

「さっきと少し違うわ....」

ラッセルは、ストールを広げサラを抱きしめながら、自分も一緒にストールにくるまる。


隠れていたサラは

「良かった。これでここは死ぬ事はないわね。きっと現実もこうやって私を抱きしめててくれてたのね」少し目を潤ませる。

どれくらい時間がたったのだろうか。月は沈み、ラッセルはヒューに姿を変える。そして、朝日が昇り始める。ステラとロイがやってきてサラとヒューは荷馬車に乗ってステラの家に向かった。


サラは眠い目を擦りながら

「良かった。これでとりあえずは、大丈夫ね。これからどうしよう?」と考えていると、ハンナから貰った鈴を思い出す。サラは、ポケットから鈴を取り出すと、チリンと鳴らす。すると何処からかハンナの声が聞こえる。

「サラ様ですか?そちらは、どのような所なのですか?」ハンナが聞くと

「どうやら、ラッセル王子の記憶の中にいるみたいです。ですが必ず悪い方に行ってしまうようで、私が死ぬとループしてしまうみたいです」

「それでは、悲しみに囚われてしまいますわね」

「ええ、そうなんです」

「では、そちらの世界も、こちらと変わらないのですね?」

「多分ほぼ変わらないと思います」

「それなら、私の屋敷があるはずです。場所を教えますので行ってみて下さい。その鈴とナイフを見せればそちらの私が、協力出来るか知れません」サラはほっとして

「はい。分かりました。すぐに向かいます」

「サラ様、お気をつけて」とハンナが言うと声は途切れた。


サラはハンナに教えて貰った屋敷に急ぐ。フードを深く被りパン屋の前までやってきた。元気そうな、お母さんとお父さんが店にいるのが見える。

「お母さん、お父さん....」と呟くと、泣きそうになるのをぐっとこらえる。しばらく見ていると、ヒューと綺麗になったサラが店へ降りて来るのが見える。

「良かった。とりあえずはまだ何も起こらないわね」と言ってハンナの屋敷に向かおうとした時、グレクの姿が見える。


「えっ、どうして?まだここに来る予定では無いはず」ラッセルはハッピーエンドを拒んでるように悪い事が起こる方向へ加速をつけて進んで行く。

「ラッセル王子、何を怖がっているの?」

サラはグレクに近付くと、大きな声で

「やめて下さい。グレクさん、どうしてそんな事をするのですか?」と叫ぶ。周りはザワザワとなり、グレクが

「な、何ですか?あなたはっ」と言うが、サラは構わず続ける。

「皆さんっ、この人はレオ王子の側近で、コソコソと皆さんの情報を聞き出しているのですっ」と言うと、グレクの周りに、本とかよ。と言いながら、人が沢山集まり出す。人が群がるのを確認すると、サラは人ゴミに紛れて、その場を離れる。グレクは、

「な、な、な、」と言いながら後ずさりしながら、逃げて行った。サラは、ほっとして


「これでここも、なんとかなったわね。後はラッセル王子自信に、幸せを感じて貰いたいんだけど、どうすれば....」考えるが答えを出せないでいる。

「もしかして、ラッセル王子をこの世界から救うにはここのヒューの呪いを解けばいいのかも」でも呪いを解くまでに、何回私は死ぬか分からない。そしたら、それこそ、ラッセルはこの世界に閉じ込められてしまうかもしれない。答えが出せないままハンナの屋敷に向かう。


屋敷に到着するとベルを鳴らす。ハンナが出てくると

「どちら様でしょうか?」と尋ねる。

「私、サラと申します」と言うと、ハンナに鈴とナイフを見せる。

「これは、私が作った鈴と魔女に伝わるナイフ。お嬢さんどこでこれを?」サラは、事のいきさつをハンナに話す。

「まあ、ではここは、ラッセル王子の記憶の中なのですね?」

「ええ、多分そうなると思います」

「まずは、部屋へ入って」と部屋へ案内される。部屋へ通されると、サラは、呪いの事や、ラッセル王子が刺された事などを話す。

「色々と大変でしたわね。向こうの世界でもアンブラは悪さをしているのね。申しわけありません」

「ハンナさんのせいでは....」

「ラッセル王子が目覚めるにはですよね。やはりこちらの王子の呪いを解くのが一番早いのではないですか?」

「でも、私が呪いを解いてもいいのか、分からないので....」

「そうよっ、それよ。今ここにいるあなたが呪いを解けばいいのよ。だってヒュー君を愛しているのでしょう?」

「ええ....でも失敗したら」

「その時は、私も何とかしますっ。今は可能性があるなら、やってみるべきですわっ」

「そうですよね」と言って、決意を固め、ハンナとヒューの元へ向かうのだった。

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