第二九話

 ラッセルは、ゆっくりと目を開ける。そこは見慣れた自分の部屋のベッドだった。


「サラはっ?」と言い、辺りを探すと、サラはラッセルの部屋のソファーに目を閉じながら座っている。

ラッセルはサラの元へ近寄り、頬を触りながら

「サラ....目覚めてくれ....」と呟く。

「ん.....ラッセル王子?」とゆっくりサラはラッセルをその瞳に映す。

「サラっ!大丈夫かっ!どこも痛くないかっ」

「あ、うん。大丈夫みたい。戻れたんだね。良かった」と微笑む。

ラッセルはたまらずサラを抱きしめる。

「苦しいよ?ヒュー?」と思わず言ってしまう。

「サラ、ごめん。俺はお前に本当の事を言えなくて」

「そうだよっ、ヒュー?嘘はダメだよ?」

ラッセルは、しゅんとする。その姿がヒューと重なり

「冗談だよ。でも呪いが解けてよかったね」

「ああ、サラのおかげだ。呪いが解けたって事は俺の事、愛してるって事でいいのか?」ラッセルは少し心配している。

「もちろんです。私はヒューもラッセル王子も愛しています。あの森であなたは、ずっと私を抱きしめててくれたでしょ?あの光景を見てヒューもラッセル王子も一緒だと感じたの」

「そうか、サラ、俺を助けてくれてありがとう。俺はサラを愛してる」

「私もです.....」と言うとラッセルはサラの瞳を見つめ、ゆっくりと顔を近付ける。そして長いキスをした。名残惜しそうに、唇を離すと

「やっと、抱きしめられた....」と言ってまたサラを抱きしめる。サラは、ふふふと笑うと

「ラッセル王子っ目覚められたのですかっ」と言ってカイルが部屋へ入ってくる。

「ああ、カイル心配かけたな...」

「呪いも解けて、全てサラ様のおかげですっ」とサラに深くお辞儀をする。

「カイルさん、頭を上げて下さい。私は自分のしたいようにしただけです」

「もったいないお言葉.....」と言って涙ぐんでいる。


ハンナも部屋へ来て

「ラッセル王子、サラ様、本当に良かったです」

と言うと、ラッセルが

「ハンナ、言いずらいのだが、アンブラを向こうの世界で、あのナイフで消してしまったんだ」

「そうですか....あの子何か言ってましたか?」

「いや、ナイフを刺して、消える瞬間、アンブラは微笑んだ気がしたんだ」

「あの子、これが望みだったのかもしれません。誰か自分を消してくれる人を探していたのかもしれません」

「そうか、すまなかったな....」

「いいえ、これで良かったのです」


「カイル、レオはどうしてる?」

「それなのですが、シーラ様がラッセル王子にナイフを刺してから、おかしくなられてるようで、ずっとブツブツと何か言っておられて.....レオ様がずっと付き添っています」

「悪いが、レオを呼んで来てくれないか?」

「かしこまりました」と言うとカイルがレオを連れて来る。レオは俯きながらラッセルの部屋へ入ってくる。

「兄さん....俺....」

「レオ、顔を上げろ」レオはラッセルを見つめる。

「俺は、兄さんさえ、いなければいいと思ったんだ。あなたさえ、いなければ幸せになれると」

「ああ、知ってる。それで俺が刺された時、嬉しかったか?」レオは首を横に振り

「苦しくて、押しつぶれそうだった....お母様もおかしくなってしまって。全部自分のせいだっ」レオはガックリと膝をつく。ラッセルは、レオに近寄ると、肩に手を置き

「レオ、俺達は兄弟だ。たとえ母が違えど兄弟に間違いない。もう子供じゃない。自分で何事も考えられるはずだ。俺はレオに支えになって欲しいんだ」

「兄さん...俺は兄さんを呪いにかけ、殺そうとしたんだよ?」

「殺そうとしてたら、すぐに殺せるはずだろ?だけどお前はしなかった。それにな、犬になって悪い事ばかりじゃ無かったんだぞ。サラに出会えたからな」ラッセルはサラを愛おしそうに見つめる。

「兄さん俺、またやり直したい.....」

「ああ、もちろんだ。だが、サラはやらんぞ?」

「はい。分かってます」

「シーラの事だが、レオに任せていいな?」

「お母様は兄さんを刺したんだ。何か罰を与えないと」

「いや、シーラは犬を刺したんだ。だからもういい。あの人も、苦しんだだろう.....レオこれからは頼んだぞ」

「ありがとう。兄さん.....」と言うとレオは部屋を出ていった。カイルが

「ラッセル王子、少し甘いのでは無いですか?」

と言うと

「昔はな、ほんの少しだけ、レオが心を開いてくれた事があったんだ。だがな、俺も幼くて何もしてやれなかった。気が付いた時にはもうレオは俺を憎んでいたんだ。だから今こそ、兄弟としての絆を確かめたいんだ」

「そうですか。分かりました。私は何があろうとラッセル王子の側にいます」

「ああ、期待してるぞ」

そのやり取りをニコニコして聞いているサラがいる。カイルが

「私達は、お邪魔でしたかね?」

「ああ、邪魔だなっ!」と言うと皆、微笑みながらラッセル王子の部屋を後にするのだった。


そしてラッセルはサラの前まで行き、サラに膝をつき

「サラ・レベッカ・ベル。俺と婚約してくれますか?」と言うとサラは笑顔で

「私こそ、宜しくお願い致します」と答えた瞬間、ラッセルはサラをおもっいきり高かく持ち上げ、抱きしめるのだった。

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