第二四話

 夜が明け、ヒューは店へと降りる。

「ヒュー起きたんだね。城へ行くよ」

ロビンが荷馬車を出してくれて城へと向かう。

「もう城へは行きたくない。と思ってたのにね...」

「ステラ、すまん。俺のせいで」

ヒューが謝ると、

「違うよ。ヒューのせいじゃないさ。これも試練なのかね...」

「試練か。真実の愛か...」ヒューが呟く。


城に到着するとカイルが出迎える。

「ラッセル王子。あっ、ステラさんもご一緒でしたか」

「大丈夫だ。ステラは知っている」

「カイルさん、私はね、たいがいの事じゃ、驚かないよ。ここにいるのは私にとって大切な家族のヒューさ」

「ええ、そうですね」

カイルはステラに笑顔を向ける。そして皆でレオの部屋へ向かうと、途中シーラと出くわす。シーラは

「カイル殿、そこの小汚ないおばさんと犬はなんなのですか?まさか、レオの部屋に行くのでは無いでしょうね?」ステラが

「小汚ないおばさん?カイルさんこの礼儀の知らないおばさんは誰なんだい?」

カイルは言いずらそうに

「レオ王子の母君です...」と答える。

「はっ、笑っちまうね。あんたがね...」

「何ですの?」

「あんたが、王の側室で、レオ王子をどうしても次の王へと目論んでいるっていうイヤな奴かい。市民の情報をなめるんじゃないよ」

「な、何を...全くのデタラメ...」シーラはステラの勢いに押されぎみだ。


騒ぎにレオがサラの手を引いて部屋から出てくる。

「なんだよ。朝から廊下でごちゃごちゃとうるさいな」ステラが

「サラっ!」と呼びレオが繋いでる手を外しサラの手を引く。

「お母さん....」ステラがサラの瞳を覗き込む。

「サラ、あんたの目死んでるじゃないかい。誰がこんなことしたんだいっ!」レオが

「サラは僕を選んだんだ。悪いけど、兄さんもおばさんも帰ってよ」するとシーラが

「兄さん?どこにいらっしゃっるのかしら」

「そっか、言ってなかったっけ、その犬が兄さんだよ」レオがそう言うと

「この犬がラッセル王子ですって?」シーラは驚きを隠せないでいる。ステラが

「なんだっていいだろ。とにかくサラは返して貰うよ」ステラがもう一度サラの手を引く。

「うるさいおばさんだな。サラは俺のものだって言ってるだろ」ヒューは我慢出来ず

「レオ、本当にそれでいいのか?お前サラの顔を見たのか?」

「な、何言ってるんだよ。サラは俺の事好きだって言ったんだよ。なっサラ」

「はい、レオ王子、私はレオ王子が...」サラは薬を飲まされているはずなのに懸命に抵抗しようとしてる。

「サラ、昨日、何度も俺に好きと。といったじゃないかっ!」サラから大粒の涙が流れ出す。


ヒューはたまらずサラに駆け寄ると

「サラ、俺だ。分かるか?」と優しい口調で語りかける。突如、煙と共にアンブラが現れる。

「おっと、皆さんお揃いで。盛り上がってるみたいじゃないかい」アンブラは、すっとシーラに近ずくと、シーラに耳打ちをし、装飾の綺麗なナイフを渡す。シーラはナイフを受け取り、ごくりと唾を飲み込む。


「お母様、何を言われたの?ナイフなんて危ないだろ。こっちに渡して」

レオがシーラに言うと、アンブラは、

「物語をもっと面白くしておくれよ。けけけけ」と言って消えていった。しかしシーラはレオの言葉が聞こえておらず、ぶつぶつと何かを言い始める。

「今がチャンス。犬だから人間じゃない...犬だから、犬だから...」

「お母様っ!何言ってるんだ。ナイフを捨てて!」レオの大きな声にびくっとなるが、突如シーラはヒュー目掛けて走り出す。皆が止めようとするが、何故かシーラはスルリと間をすり抜けヒューの脇腹にナイフを突き立てる。ヒューはうっと言いながら、サラの目の前でドサッと倒れ込む。

真っ白な毛並みはみるみると血で染まっていく。血はどんどんと流れ出し辺りは血の海のようになっている。サラは何が起こったか分からず立ちつくす。サラの中で、パリンっと何かが弾ける音がした。


それと同時に

「ヒューっ!」と言って汚れるのも構わずヒューを抱きしめる。

「やだ、やだ。ヒュー死なないで」

ヒューは顔をサラに向け

「サ、ラか。元に戻ったんだな...良かった、な」

と力の限り言葉にする。ヒューは少しずつ目を閉じ始める。

「ヒュー、目を閉じちゃダメっ!」

サラはヒューに顔を近付けると、瞼にキスを落とし、そして口にキスをする。


すると、ヒューの姿が光りを伴いラッセル王子へと変わり始める。呪いが解けたのだ。人間に戻ったラッセルだが、徐々に意識が遠おのいていく。カイルがかけより

「ラッセル王子、死なせはしませんっ」と言って応急措置をほどこしてベッドへ運ぶ。

「カイル...呪いが解けたのにな....」

「もう、喋らないで下さい」

ラッセルはもうろうとする中、薄れ行く景色を見つめ意識を手放したのだった。

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