第二三話

 レオは一人サラを部屋へ残すと、庭へ出て来る。グレクが

「レオ王子?サラ様はどうされたのですか?」と尋ねる。

「置いて来た。サラに花でもと思って」

レオには思い出の花があった。とても大きなピンク色のガーベラ。小さい時に一度だけその花を母にプレゼンしたら、母はとても喜んでくれたのだ。今でもレオにとって、その花は大切な花だった。

「こちらのバラの方が見栄えが宜しいのでは?」とグレクが言うと

「いや、ガーベラがいいんだ」と言って一本手に取ると、部屋へと戻る。

サラは、ソファーに座って、外を見つめている。

「サラ、プレゼントだ.....」

レオ王子は、ぶっきらぼうにガーベラをサラに差し出す。

「ありがとうございます.....」

サラはそれを受け取り、微笑むが、目から涙が溢れる。サラの心と体はちぐはぐな様子だ。

「サラ、何で泣くの?やっぱりお前も兄さんがいいんだ....」

「いいえ、私はレオ王子が好きです」

レオは、サラの涙を指で拭うと、サラに顔を近付ける。

「サラ、目閉じて」

サラが目を閉じると、乱暴に唇を奪う。それでもサラはじっとしている。

「口、開けて」とレオが言うが、決して開けようとしない。レオが唇を離すと、サラは心の無いまま微笑む。

「くそっ、なんなんだよっ!」

レオは、拳を握りしめソファーをおもいっきり殴る。

「絶対、心も体も俺の物にする.....」


ヒューは、ハンナの屋敷から店に戻ると、ステラに自分の事を話そうか迷っていた。ステラなら分かってくれるかもしれない。しかしステラは、サラの事がとても大切なので、王子だと知ると反対するかもしれない。現に俺が原因で事件に巻き込まれているのだから。


「ヒュー、お帰り」

ステラがヒューに話しかける。ヒューは俯いたまま、わん。と鳴いた。

「なんだい?さっきの奴の事気にしてるのかい?サラがレオ王子を好きになるはず無いだろ。私はサラを信じてるし、ヒューの事だって信じてるよ」ヒューは、自分の事しか考えて無い自分が嫌になった。少し間をあけ、深呼吸をする。

「ステラ.....」

「ん?今、まさか、名前呼んだかい?」

「ああ......」

するとステラが大きな声で

「はっはっはっ!ヒュー話せるのかいっ。長い間生きてたけど、こんな事初めてさっ」

と大笑いし、ヒューの頭を撫でる。ヒューはステラの様子を見て安心すると

「ステラ、すまん。俺のせいで、サラは....」

「何でだよ。何でヒューのせいなんだよ?さっきの男の話しかい?」

ヒューは自分が王子だと言うか迷っている。

「そうだ。全部俺が原因だ....」

ステラはヒューの顔を覗き込み

「ヒュー、なんか訳ありみたいだね。こんなおばちゃんだけど、それでも、あんたの飼い主だよ。あんたがどごぞの王子だって驚かないさっ」

ヒューは驚いてステラを見る。

「はははっ、ヒュー私をなめて貰っちゃ困るよ。この街で何年生きてると思ってるんだい!パン屋をやってればね、色んな情報が入ってくるんだよ。だけどまさか、あんたが話せるまでとは思わなかったけどね」

「俺は、ラッ....」

ヒューが名前を告げようとすると、ステラは微笑みその言葉をさえぎる。

「あんたは、紛れもなく、この私の家族のヒューだよ。違うかい?」

「いや、その通りだ。ステラありがとう....」

「なら、やる事は一つだ。サラを連れて帰るよ。家族は一緒にいるのが一番だからねっ!」

「ああ、そうだな」

「ヒュー、明日は早いからもう休みな」

「ああ、分かった」

ヒューは部屋へと戻る。ステラはその後ろ姿を見つめながら

「あんた、ラッセル王子だろ?なんで犬になったかは分からないけど、薄々は分かるさ。これまでの事だってさ。それに普通の犬じゃないからね....」


ヒューは、部屋へ戻るとカイルに連絡を取る。

「カイル、今サラの様子はどうだ?」

「特には変わった様子は無いですが、レオ王子がサラ様を部屋に閉じ込めているようで」

「そうか.....何もされてなければいいが」

「それは、こちらもそのような事がありましたら踏み込む覚悟です」

「任せたぞ。俺は明日早くにステラと城へ向かう」

「はっ、お待ちしております」


ヒューは、サラの匂いがするベッドに入ると、夜が明けるのを待ち、外をずっと眺めていたのだった。

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