第十五話

 ハンナの家から戻り、日常を過ごしているが、まだ特に変わった事はない。

カイルから、途中連絡があり、グレクがベル家に来て探りを入れていると、報告があった。

やはり、レオもそこまでたどり着いたか。しかし、何を起こすかまだ分からない。こちらから事を大きくする訳にもいかない。


「ヒュー、最近店の入り口ばかり陣取ってるね。何か見張ってるの?」

ドキっ、サラは何故か俺の事をいつも分かる。

わんっ。

「ふふふ、追及しませんよ」

なんとしてもこの笑顔を守らねば....

ステラがやって来て

「いいかい、ヒュー誰か変な奴が来たら追い返しておくれよ」

こそっとヒューに伝える。

もちろんだ。わんっと答える。

「サラ、少し休憩しておいで」

「はいっ、お母さん」

サラは二階の部屋へ戻る。


ヒューは、部屋へ戻らず、入り口で待機する。


すると、三人の城の護衛達が店に入って来た。

ついに、来たなっ!

ガルル~、わんっ、わんっ、わん。

ヒューの鳴き声に何かあったと思い、ステラが店に来る。

「なんだい?あんた達?城の護衛さん達が、こんな街のパン屋までご苦労なこったね」

「お前は、ステラ・スコット・ローチだな」

「そうだけど、なんだい」

ステラは護衛を睨み付ける。

「サラ・レベッカ・ベル誘拐の容疑がかかっている。城まで来て貰おうか」

「なんだって?あたしゃ、そんな事してないよ。ロビンっ!2階へ行ってサラを守りなっ」

「あ、ああ」

ロビンは何がなんだかさっぱり分からなかったがサラの元へ向かう。ヒューは、護衛達に飛びかかる。

ガルルル~、わんっ、わんっ。

「なんだ?この犬っ!邪魔だっ」

護衛がヒューを斬りかかろうとするが、ピョンっとそれを避け、護衛に飛びかかる体勢に入る。

「ヒュー、おやめ。あんたまで何かあったら、サラが悲しむだろ。それに誰がサラを守るんだい?ヒューも2階へ行きな。私は平気さ、誘拐なんてしてないんだから。直ぐ戻ってくるさ」

「最初から、大人しく連行されればいいものを」

ヒューは、急いで2階へ向かう。

「お父さん、どういう事ですかっ!」

「分からない......」

「私のせいで、お母さんが.....私が伯爵家の令嬢だからっ、でも、誰が?」

ロビンがサラを抱きしめる。

「お父さん、今すぐ、城に向かいますっ。だってお母さんは、私を誘拐なんてしてないものっ」

サラは部屋を飛び出そうとするが、ヒューがドアを塞ぐ。

「ヒュー、どいてっ」

どんなに力を入れて押そうが、ヒューはどかなかった。

「なんでっ、邪魔をするの?」

ロビンがサラの腕を掴む。

「今、行ってもなんにもならないって事だよ。ヒューだって分かってんのさ。本当は今すぐ飛び出したいはずだ。なっヒュー?」

わんっと答える。

サラはその場に崩れ落ちる。ロビンは、

「明日になったら、私が城へ行ってみるから。それまで我慢してくれ。必ずステラを連れ戻すから」

サラは泣きながら

「はい....お父さん」と答える。


サラは、ベッドに横たわって、動こうとしない。その姿を見て心が痛んだが、こうしてはいられない。そっと店を出ると、路地へ向かう。

「カイルか、聞こえるか」

「はっ、ラッセル王子」

「今、ステラが、サラ誘拐の容疑で捕らえられた。証拠は揃ってるな」

「はい、もちろんです。証人も準備済みです」

「分かった。そっちは任せる。俺はハンナの館に行って、人に戻る薬を貰ってくる」

「ラッセル王子もくれぐれも気を付けて」

「ああ。お前もな」

ヒューは急いでハンナの館へ向かう。そして人に変わる薬を貰い、またすぐに店へ戻る。サラを一人にしておくことは出来ない。部屋に戻るとサラは、俯いてベッドに座っている。近付いてサラの前に座る。そしてサラの顔を除き込む。

「ヒュー、私は何をすれば...私がいると皆が不幸になるのかな....」

ヒューは、サラを押し倒し、顔をペロペロ舐める。

「う、う、う」サラはまた泣き出す。

なんとかしてあげたくても、何も出来ない自分が悔しい。ただ側にいてあげる事しか.....


外を見ると夜が明けてきた。サラは、泣きはらした顔をしていたが、何か決意したような強い表情を見せる。

「泣いてばかりいても、何も解決なんてしない。お母さんは、私を守ってくれた....」

サラはハサミを取り出すと自分の髪をバッサリ切り落とす。この時代、女の髪は命より大切とされ、長ければ、長いほど美しいとされていた。

ヒューは、なんて事を、と思ったが、サラの強くなった顔は、朝日に照らされ美しいと思った。ロビンが部屋へ来る。

「サラ、起きてるかい?」

部屋へ入り、サラを見て驚く。

「サラ、なんてことを......」

「いいんです。後悔はしてません」

サラの決意した顔は、ロビンも分かったようで

「サラ、こっちへおいで。髪が、バラバラじゃないか。整えてあげよう」

と言って、器用に髪を綺麗に整えてくれる。

「お父さん、ありがとう」

「なに、なんでもない。サラ、俺は城に行ってくるから。店は開けなくていいけど、いない間守ってくれよ」

「はい、お父さん」

ロビンが店を出る。しかし、ロビンはその日戻って来なかったのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る