第十四話

 城にグレクが戻り、レオの部屋へ向かう。

「レオ王子、戻りました」

「入れ」

グレクがレオの部屋へ入る。

「何か分かったか?」

「ええ、面白い事が分かりました」

「それで?」

「ラッセル王子なのですが、街のパン屋で暮らしてるようです。それと、そこで女が一緒に暮らし始めたみたいです」

「パン屋とは、パレードで止まった所だな」

「ええ、そのようですね」

「それと、その女なのですが、どうやらパン屋の娘ではないようです」

「パン屋の娘では無い?」

「周りの者が言うには、とても美しく、どう見てもパン屋の娘に似ても似つかわないと。名前は、サラと言うらしいです」

「美しく、サラ?どこかで聞いた名だな」

「ええ.....」

グレクはニヤっと笑う。

「まさか、ベル家の失踪した娘か」

「おおいにあり得るかと」

「ふふ、そうか、これが本当なら、兄さんから全てを奪えるな。俺と同じように苦痛を味わえばいい......」

レオはうっすらと笑いを浮かべ

「すぐに、ベル家の事を調べろ」

「はっ、かしこまりました」

グレクが部屋から出て行く。

「俺の勝ちだ....兄さん.....」


カイルはその頃、ベル家の使用人として働いている。

「カイル、これも運んでおくれ」

「はい、ただ今っ」

カイルは、屋敷のなんでも行う使用人として使われている。カイルの人なつっこい性格はすぐに皆と打ち解け、少しずつだが、サラの情報を入手していた。休憩時間になり

「ねぇ、ソフィア、確かこの屋敷に長女のサラって人いなかったっけ?今いないんだね。どっかに行ってるの?」

カイルは、ソフィアという侍女と特に仲良くしている。ソフィアはこの屋敷に長く働いてるらしくサラとも面識があるのだとか。

「しっ、サラ様の話しはここでしてはダメよ。話してる事がバレたら、とんでもない仕置きをされるわ」

「えっそうなの?」

「そうよ。それと、この間も城からサラ様について聞いてきたやつが来たって言ってたわ」

「城から?」

「ええ、なんか急ぎだとか」

「ふ~ん。城からねぇ。ねえソフィア、サラ様の事好きだった?」

「もちろんよ。ここにいる皆だって、大好きだったわよ。天使みたいなのよ。でも皆、サラ様の事助けられなかった.....あっ、今のは聞かなかった事にしておいて」

「うん、分かった」

「さっ、休憩も終わりよ。少しでも遅れたらテレーザ様になんて言われるか」

ソフィアは、持ち場へ戻る。

「なんとか、証拠を集めなければ、グレクに先を越される訳にはいかない」


カイルは、屋敷を掃除し始めると、屋根裏部屋があるのを発見した。こんな所にも部屋が。

サラ様の部屋はここの可能性が高いな。カイルは部屋を開けると、カビの酷くすえた匂いが漂ってくる。

「う、まさか、こんな所に何年も?」

カイルは部屋へ足を踏み入れる。

部屋は、誰かが暮らしていたままの姿だった。

長い栗色の抜けた髪があちこちに落ちている。その髪を取ると、

「サラ様の髪と同じ色だな。ここで間違いないな」

染みだらけのベッドを見ると、脇に水差しがおいてある。匂いを嗅ぐと無臭だが

「何か証拠になるかもしれない」

カイルは持っていた小瓶にそれを入れる。

部屋を出ると、あとは証人だな。

なんとか、ソフィアに証人になって貰えれば。

夜になりカイルはソフィアの部屋に訪れる。

「ソフィア、いる?」

部屋からソフィアが出てくる。

「どうしたの?カイル?」

「中に入れて。ダメ?」

カイルの真剣な表情から

「いいわ、入って」

とソフィアはカイルを招き入れる。

「ソフィア、実はさ、俺、城の者なんだ」

「そう。何となくそうかなって思ってたけど。だって、サラ様の事しか聞かないんだもん」

「はは、従者失格だな....」

「サラ様の事よね」

「うん、そうなんだ。ソフィアに証言して貰いたいんだ」

「それは、無理よ。そんな事したらテレーザ様に何をされるか」

「ソフィアの事は俺が守る。それと王家で働けるようにもする」

するとソフィアが何かを決めたように

「ずっと苦しかった....サラ様は最後まで私達の事を気にされていて、パンを内緒で持っていっても、要らないって断るのよ?私が酷い事されるからって。あんなにボロボロなのに...」

ソフィアは、涙を流す。

「サラ様は、今とても幸せだよ。でもまたその幸せを壊そうとしてるやつがいる」

「分かったわ。私、証言する。あとこれ」

ソフィアは小さい瓶をカイルに渡す。

「これは?」

「テレーザ様は、旦那様も殺したのよ。旦那様に毎日少しずつ毒を盛っていたの。私それを見ちゃって、怖くて誰にも言えなかったけど、こっそりテレーザ様の部屋からその薬を見つけて、皆に何かあったらこれで、テレーザ様に対抗しようと思って持っていたの」

「ソフィアは強いね」

「違うの。サラ様を助けられなかったから、

今度こそはと思って」

「そっか、ありがとう。じゃ俺は、明日から消えるけど、また迎えに来るから」

「分かったわ。待ってるわね」

ソフィアは、罪の意識が取れたのか、スッキリとした顔をしている。


王子、証拠は揃いました。これでなんとかサラ様を助けられますよ。と呟くカイルだった。

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