第十二話

 舞踏会も終わり、苛つきながら、レオは部屋へ戻る。

「アンブラ、聞こえるか?」

煙と共に、アンブラか現れる。

「なんだい?そんなに苛ついて」

「兄さんが、現れたぞ。どうなってるんだ。犬に変えたんじゃないのか?」

「ああ、見てたよ。ハンナだろうね」

「何を呑気に。直ぐにどうにかしろっ!」

レオはたまらずアンブラに怒鳴る。

「気の短い事で。私は面白きゃ、どっちでもいいんだけどね。物語は最後まで分からない方が面白いだろ?」

「くそっ、俺はお前と契約をしたんだぞ」

「そう、焦りなさんな。呪いは簡単に解けやしないよ。もって、今日1日さ」

「そうなのか、ならまだチャンスはあるな」

「人使いの荒い、王子様だこと。けけけけ」

と言って消えて行った。


しかし、今日はいったい兄は、誰と踊っていたのだろうか?そして、犬になった兄はどこに?

調べる必要がありそうだな。弱味を握るには絶好のチャンスかもな。ふんっと笑いソファーに腰かけるレオだった。


ラッセルも部屋へ戻ると、窓の外を眺める。サラと踊った事を思い出していた。

サラは、楽しんでくれただろうか?舞踏会に行っていないと、少し淋しそうな顔をしてたから....


「ラッセル王子宜しいですか?」

カイルが部屋へ訪れる。

「ああ。入れ」

「ラッセル王子、あのサラという娘、パン屋の本当の娘では無いのですね」

「ああ、そうだ。森に捨てられてた所、二人に助けられたんだ」

「捨てられた?」

「俺が犬に変えられた時、偶然サラが捨てられた日だったようで、その時の様子は、思い出すだけで、腹が煮えくりかえる」

「そうですか....それで、サラ様の何を調べろと?」

「それだが、サラの身に付けているネックレスが、どうやら、ベル伯爵の紋章みたいなんだ」

「あの、当主が亡くなり、長女が失踪したというベル家ですか?」

「ああ、なるほど。それで、サラ様を捨てたと」

「酷い姿だった。ガリガリに痩せて、体には痣だらけで.....」

ラッセルは拳を握りしめる。

「なんとか、サラをあんな目に合わせたやつらの証拠を集めたい」

「なんと、あんなに素敵なお嬢さんを...分かりました。直ぐに調べはじめます」

「任せたぞ」

「それと、ラッセル王子、言いにくいのですが」

「なんだ?」

「犬に姿がお変わりなったら、私が街まで送りますので」

「いや、別に一人で帰った方が早いから、気にするな」

「いえ、朝お迎えに来ますので」

「あ、ああ分かった。任せる」

何故か引き下がろうとしないカイルに不思議に思うが、まあ、良いと思いサラへと思いをはせる。


久しぶりに自分のベッドに横たわると、サラが隣にいない事に淋しく思う。ラッセルはサラが犬の自分を愛してくれないか?と思うが、まずそんな事は無いだろうと、ため息をつく。


そうこうしてると、夜が明け始め、カイルが迎えに来る。

「ラッセル王子、そろそろ出ませんと」

「ああ、今行く」

二人は、馬車に乗り込むと朝になり、薬が切れたようでラッセルの姿は犬に変わる。

「薬が切れたようだな.....」

「そのようですね」

「カイル、悪いが、父上にまた俺が旅に出たと伝えてくれ」

「ええ、かしこまりました」

パン屋に近付いて来ると、サラが店の前で待ってるのが、見える。

「ラッセル王子、大切にされてますね」

「犬としてな.....」

馬車が到着すると、

「ヒュー、お帰り。迷子になっていたんでしょ?大丈夫だった?」

ラッセルは、カイルを睨む。

「サ、サラ様、昨日はありがとうございました。楽しめましたか」

カイルが尋ねる。

「ええ、とっても」

ニコっと微笑むと、カイルが頬を染める。

ヒューは、う~、わんっと吠える。

「こらっ、ダメでしょ?助けてくれた人に....」

「そ、それではっ、サラ様、私はこれで」

「ええ、こちらこそ、ありがとうございました」

カイルが城へ戻る。


その時、レオの従者グレクが路地からずっと様子を伺っていたのだった。

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