第十話

 ステラは、ハンナとカイルを家へ招き入れる。

カイルが

「大変、失礼致しました。実はですね、ある方からの依頼で、本日の舞踏会の招待の依頼をされまして、こちらに伺ったのです」

「えっ!なんだって!」

「驚かれるのも分かります」

「いや、家はしがないパン屋なんだよ。ドレスなんて無いし、ましてや馬車だって...」

ハンナが

「ええ、もちろん、知ってます。なのでこうして私が来た次第です」

ステラが奥にいるサラとロビンを呼ぶ。

サラが店に現れると

「なんて、素敵なお嬢さんなんでしょう」

ハンナが言うと

「そうさ、サラは顔だけじゃなくて、心だって、ぴか一に綺麗なんだよ」

ステラが自慢する。


ハンナとカイルは顔を見合せ

「こりゃ、王子もほっとけないですね.....」

「ええ、そうね」

「何か、言ったかい?」

「いえ、なんでもありません」


「サラ、なんか分からないけど舞踏会のご招待だってさ。どうする?行くかい?」

サラは首を横に降り

「いいえ、ヒューが帰って来ると思うので私、行きません」

カイルが

「ヒューとは、まさかあの犬ですか?」

「えっ、知っているのですか?ヒューを」

カイルが焦り

「い、いえ、この間この近くで立派な犬を見かけましたので....」

「そうなんです。朝から姿が見えなくて。でもそろそろ帰って来る時間だと思いますので」

カイルが思わず

「そ、その犬なら私が預かってます。なんか、迷子になっていたようで、保護しました.....」

シドロモドロになりながら、なんとか言い訳を考える。

「えっ、ヒューが迷子?そんなはず...」

「と、とにかく、明日の朝には連れてまいりますので、まずは舞踏会の出席を」

サラは、不信感が拭えないが、しぶしぶ了承する。

「分かりました......」

カイルがほっと胸をなで下ろす。

ステラが

「なら、私達も行くよ。舞踏会なんて興味は無いけどね、サラを一人で行かせる訳にいかない。あんな悪人ばかりいる貴族どもの巣に放り込む事は出来ないよ」

ステラは、サラのされてきた事を知っているから、貴族全員を悪人だと思っている。

「まぁ、お強いお母様で。もちろんです。二人とも、招待して欲しいとの事です」

ステラが首を傾げる。

「まるで、家を知っているみたいだね。誰なんだい?」

「それは、秘密です。そのうち、分かる日が来ますわ。さあ、早速準備にかかりましょう」

ハンナが、パチンっと指を鳴らすと


サラは、ドレスの姿に変わる。上品な薄いブルーのドレスにグレーの耳飾りを付け、髪はふんわりとアップにされ、少し頬紅を差し、唇はほんのり艶のあるサーモンピンク。誰もが文句無しに一番綺麗な令嬢だと思うに違いない。


「サラ、本当は.....」

ステラが淋しそうな顔をする。まだ何も言っていないサラだが、何処かの令嬢だと。ステラが気が付いているだろうと分かっているので

「お母さん、私はお母さんが大好きよ。何があろうと、お母さんの子です」

ステラは

「サラ、ありがとよ.....」

カイルはそのやり取りを見ていてサラはこの家の娘じゃないのか?と思い、ラッセルの言っていた事を思い出す。

「なるほど.....」と呟く。


「次は、お母様とお父様ですね」

ハンナは指をパチンっと鳴らす。ステラもロビンも舞踏会用の衣装に変わる。

「あんたっ、まるでどこかの貴族様だね」

「ステラだって」

「窮屈な服来てるんだね。貴族様達は」

サラが

「二人とも、素敵です」と言うと

「そうかい?」と返事をして頬を赤らめる。


「さっ皆様、馬車も用意していますのでお乗り下さい。それからですが、名前も身分も決して名乗らないで下さい」

「あたり前さ、サラ、用心するんだよ。あんたは、本当に綺麗だからね」

「はい、お母さん」


皆は、馬車へ乗り込む。サラは流れる景色を見つめ、だんだんと城が近付いてくるのが見える。


また城へ行く日が来るなどと思っていなかった。程なくして、馬車は城へ到着する。


カイルが

「さっ、裏からお入り下さい」

と会場へ案内する。中を覗くと、貴族達がひしめき合っている。

ステラが

「凄いキラキラしてるね。まさか、こんな経験をするとはね.....」

ステラとロビンはサラの手を繋ぎ中へと入っていったのだった。

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