第九話

 朝になりサラが目を覚ますと、隣にいるはずのヒューがいない。

「ヒューは、もう起きたのかな?」

支度を済ませ、店に降りると

「お父さん、お母さん、おはようございますヒュー見ませんでした?」

「おはよう。見てないね。あんたっ、見たかい?」

「いや、見てないな」

二人とも、首を横に振る。

ステラが

「最近は、ちょこちょこ、一人で出掛けてるみたいだし、何も心配いらないさ」

「そうだよ。ヒューは必ず帰ってくる。そうだろ?サラ?」

ロビンが言った。

「そうですよね。パレードも行きたくなさそうだったから.....」

「そうかい、じゃあ、夕方にもでも戻ってくるさ」

「今日は店を開けないからパレードまでゆっくりしておきな」

三人は、朝食を食べる。部屋へ戻り、ゆっくりしていると

「サラ~、そろそろパレード始まるから降りといで」

サラは急いで店へ降りる。

「店の前にも凄い人だかりになるからね。私の手を離すんじゃないよ」

ステラとロビンはサラの手を取り皇太子の馬車が来るのを待つ。だんだんと観客が多くなり、遠くから

「ラッセル王子~、レオ王子~」

と物凄い歓声が沸き上がるのが聞こえる。

ステラが

「そろそろ、ここを通るね」

「はい」

ドキドキしながら、待っているとラッセル王子の乗った馬車が近付いて来るのが見える。

きたっ。サラが心の中で呟くと、


ラッセル王子の馬車がパン屋の前で停まる。

ステラが、

「サ、サラなんかラッセル王子こっち見てないなかい?」

サラはステラの声など、耳に入って来ない。二人は、見つめ合い、ラッセル王子がサラに一本のバラを投げる。バラを受け取ると

まるで世界に二人だけしかいなく、時が止まった感じがした。実際は、ほんの数分の出来事だ。


ラッセルの馬車は動き出し、レオの馬車も通る。

「なんだ?ここに何かあるのか?まさかな」

数分止まっただけなので、まだこの時はレオも気にとめてはいない。


馬車が過ぎ去り、観客もバラバラと散りはじめる。


三人は店へ戻ると

「サラ~、ラッセル王子素敵だったね~。絶対サラを見てたよね。だってバラの花を貰ったんだろ?」

ステラが興奮している。

「ステラ、興奮しすぎだよ。偶然だろ。皆にも花を撒いてたじゃないか」

ロビンが言う。

「そうですよ。偶然です。でも何か.....」

サラが言うのをやめる。ヒューに似ている。なんて言ったら笑われちゃうものね。


三人は、リビングでのんびりしているとコンコンコン。と店を叩く音がする。ステラが

「お客さんかね、ちょっと待ってておくれ」

扉を開けると若い騎士風の男性と、中年の上品な女性が立っていた。

「申し訳ないんだけどね、今日はパンを焼いて無いんだよ」

若い男性が

「いえ、お伺いしたのは、そのよな事では無いのです。失礼ですが、中に入っても?」

外では、話しずらいという事か。

もしかして、サラと何か関係があるのかと思い、ステラは、思いっきり睨みつける。その様子を見て女性が

「私、ハンナと申します。名前は聞いた事がおありでは?」

ニッコリと笑う。

「えっ、ハンナって....まさかっ、東の.....」

しっと、口に人差し指を立てて、ウィンクする。

「し、失礼致しました。どうぞこちらへ」

ステラは、何故、東の魔女が家へ?と首を傾げながら家へ招き入れるのだった。

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