第八話

 日が沈むと、店も落ち着いてきて


「さあ、そろそろ店を閉めようか」

「そうだな」と言って店じまいを始める。


「サラ、お疲れ様。今日は忙しかったね」

「はい。パンが沢山売れて、嬉しいです」

「明日は、パレードの時間は店を閉めるんだよ。一緒に見に行くかい?」

「はいっ!」

サラは笑顔を見せ、とても楽しみにしているようだ。


夕飯を済ませ、部屋に戻る。

「ヒュー、明日はパレードだね。とっても楽しみ。ヒューも一緒に行こう」

ヒューは、返事が出来ない。それもそのはず自分がパレードに出るのだから。

「あれ?あんまり乗り気じゃないの?」

ヒューは、心の中ですまん。一緒には行けない.....

「そっか、凄い人だもんね.....」

サラは少し悲しそうな顔をする。ヒューもサラの顔を見上げて、ペロペロと顔を舐める。

「分かった。大丈夫だよ。もう寝ようね...」

明かりを消してベッドへ入る。サラは、疲れていたのか、ベッドへ入ると直ぐに寝息が聞こえて来る。

「サラ、ごめんな....」ヒューはサラの顔を

覗き込み、夜が明けるのをじっと待つ。夜の色もだんだんと薄くなり、朝日が昇ろうとしている。ラッセルは、サラが寝ているのを確認するとそっと、ベッドから抜け出し、店を出る。街を抜け、城の近くの川へ到着するとカイルが待機しているのが見える。


「カイル、待たせたな」

「いえ、私も今到着した所です」

カイルはヒューの首に巻いてある風呂敷から薬の入ってる小瓶を取り出すと

「王子、お飲み下さい」と言ってヒューの口に薬を流し込む。すると、光を伴いヒューは、ラッセルの姿に変わる。

「あぁ、本当に王子だったんですね....」

「疑っていたのか?」

「い、いえ、そういう訳では無いのですが....」

「ははっ。それぐらい疑い深いのであれば

従者として合格だ」

「はっ、ありがとうございます」

「それより、城へ急ぐぞ」

カイルは近くに隠してあった馬車へ戻るとラッセルを乗せ城へと急ぐ。


城もパレードの準備で忙しくラッセルが姿を現すと、城の皆が驚く。

「ラッセル王子っ!」

使用人達が、ザワザワとしているとレオがやって来る。

「兄さん.....戻られたんですね....」

「ああ、今戻った。旅に出ていたと伝えてただろ?何か不満でもあるのか?」

「い、いえ.....」

レオは、ギリッと唇を噛みしめる。

カイルが

「ラッセル王子、直ぐに準備をなさいませんと」

「ああ、そうだな」

ラッセルは部屋へと戻る。部屋へ入るとカイルが

「レオ王子の顔、悔しそうな顔をしてましたね」

「ああ、そうだな。でもこの姿も一時だ。カイルもこれからは十分気を付けるんだぞ」

「私は何があろうと、平気です」

「それとだが、ハンナに頼んで欲しい事があるのだ。今から向かってくれないか?」

「何をですか?」

ラッセルは、カイルに耳打ちをする。

「はははっ。なるほどっ!かしこまりました。

重大な任務ですね」

カイルは、ニヤニヤしながら王子を見る。

「わ、分かったなら、直ぐ行けっ!」

「はっ!」

敬礼をして、部屋から出る。


「ラッセル王子、支度の用意が整いました」

侍女から、声がかかる。

「入れ」

侍女が部屋へ入り、パレードの準備を始める。


そして、準備が整うと、ラッセルが部屋から出てくる。はぁ~と皆から、感嘆の声が漏れる。


銀色の肩まである髪を一つに結わえ真っ白な皇太子の正装な衣装は、ラッセルの端整な顔立ちを引き立たせている。ブルーグレーの瞳を真っ直ぐ向け、

「では、向かうぞ」

ラッセルは、城の前に二台停めてある先頭のパレード用の馬車に乗り込む。レオも続いて、馬車に乗り込む。


ラッパのファンファーレが鳴り響き馬車は、ゆっくりと城から街へ向け走り出すのだった。

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