第七話

 ラッセルは店まで戻ると、ただいま。と言いたい所だが、わんっ、と鳴いて店の中に入る。


犬の声も出せるのか。便利な物だな....


サラが笑顔で

「ヒュー、お帰りなさい」と迎えてくれる。

ヒューは、サラの笑顔に癒され、立ち上がりサラに飛びかかる。

本当は、抱きしめたかったんだけどな.....


「やだっ、ヒューって大きいんだから倒れちゃうよ」

ステラが

「何、イチャイチャしてるんだい?」

とからかう。

「もう、お母さんったら」

「あれっ、ヒュー首に何巻いてるの?」

そうだ、ハンナから呪いを解く薬を貰ったのだ。

サラは首に巻いてる風呂敷をほどこうとするがヒューは嫌がる素振りを見せる。

「内緒なのね。分かったわ。

無理に見ないでおくね」

サラは本当に天使なんではないかと、ラッセルは思う。


「サラ、今日は大変だったろ、手伝ってくれてありがとね」

「ううん、大丈夫。私今すごく幸せなの。お母さんと、お父さんに出会えて本当に良かった」

「サラ.....」

ステラは涙ぐむ。

「晩御飯の支度をするから、先に風呂でも入っておいで」

ステラは、サラが見違えるように、元気になり

強くなっている様子を見て嬉しく思う。

「はい。お母さん」

サラは、風呂場へ向かう。


ゆっくりと、湯船に浸かり、自分の体を見る。

一時は、ガリガリで痣だらけだったのに少し、痣は残っているものの、もうほとんど消えてしまっている。

「あの時、ヒューとお母さんとお父さんに出会わなかったら、死んでかもしれない。弱い自分じゃ、皆を助けられない。もっと強くならなくちゃ」とサラは心に誓う。


風呂から上がり、部屋へ戻る。

「さあ、夕飯が出来た所だよ。明日から

もっと忙しくなるからね。沢山食べとくれよ」

ロビンが

「食べ過ぎると、ステラみたいになってしまうぞっ」

「なんだいっ、私が太ってるとでも言いたいのかい?」

ふふふ。とサラが笑う。

ヒューも、わん、わんと鳴く。

「ヒューまで、からかうのかいっ」

皆が笑顔なり、なんて素敵なんだろう。とサラは心から感謝する。


夕飯も食べ終わり、

「ご馳走。お母さん美味しかった」

「どういたしまして」

サラとヒューは部屋へ戻る。

「ヒュー、もうすぐパレードだね。私ね、小さい時は、パレード見た事があったんだけど、最近は見てないんだ。それに、お城の舞踏会とかも大きくなってからは、行かせてくれなかったから。遠くからしか小さい頃のラッセル王子を見た事ないんだ」

ヒューはサラの口から自分の名前が出てドキッとする。

「確か、銀髪で瞳の色がグレーで....きっと素敵な人になってるんだろうね」

今ここにいるよ。と言いたいが言えないのがもどかしく、首を傾げる。

「ヒュー、変な顔してる。王子の事はどんな人になったんだろう?って思っただけだよ」

自分に焼きもちを焼くのは、変な感覚になる。

「それじゃ、もう寝ようか」

明かりを消して、ベッドに入る。ヒューもベッドに潜り込む。ベッドは狭いのだが、ここに来てからはいつも一緒に寝ている。

「お休み。ヒュー」

と言って、サラはヒューの鼻にキスをする。ヒューは、サラの頬をペロッと舐める。

お休みサラ.....


夜が開けて、朝日が昇りはじめる。サラはパンの焼ける香ばしい匂いと共に目が覚め、

「もう、作りはじめてる。おはよう。ヒュー」と挨拶をして、急いで支度を始める。

「今日も忙しい見たいだから頑張らなくちゃね。明日はパレードだもんね」


店に降りると、ステラとロイはもうパンを並べ始めている。

「お母さん、すみません。起こしてくれればよかったのに」

「いいんだよ。私達は馴れてるからね」

「ああ、そうだよ」とロビンも言ってくれる。

「じゃあ、残りは並べておくれ」

「はい。分かりました」

サラも朝から、忙しそうに、一生懸命働いている。

店は朝から賑わいを見せ、なかなか一段落つけそうにない。

「サラ、先に休憩しておいで」

「大丈夫です。まだ平気です」

気が付けば、昼を過ぎ、日が沈み始めている。


ヒューが途切れない客を見てると外からカイルが手招きしているのが見える。ヒューは、すっと店を抜けて、外へ出る。カイルが店の路地に入るのを見届けてからヒューも後を追う。


「カイル、何かあったのか?」

ラッセルが尋ねる。

「いえ、特にはまだ変わった動きは無いのですが、パレードは明日なので王子は無事かと思い.....」

「誰かにつけられて無いだろうな?」

「それは、問題ありません。それとサラとい女性を一目見たくて」

「そうか、今度こちらも、落ち着いてからサラについて調べて欲しい事があるんだ」

「それは、どおいう要件で?」

「今は時間がない。今度ゆっくり話す。明日遅れるなよ」

「かしこまりました」

カイルは路地を抜けると、城へ戻る。


店のサラを見て、どかこで聞いた名前だ。どこだったか?と考えるが、明日に備えなければと気を引き締めるカイルだった。

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