告白

 結局、シロンが選んだのは魔法学院であった。


「シロン。あなたはとてもとても良い選択をしたわ! 後になって、あのとき魔法学院を選んでよかったと思える人生を歩めるのよ! もう勝ち組ね! 流石は私の子だわ!」


 シロンの肩をユッサユッサとひとしきり揺らしたのち、スキップする勢いで何やら準備をはじめるエリル。


 一方のランドルフは、部屋の隅っこで膝を抱えてさめざめと泣いている。


 ある意味、対極にある性質の教育機関である。

 いずれも全寮制で、そのカリキュラムも生半可ではないことがうかがえる。ダブルスクールなどできるはずもなく、どちらかを選ばなければならなかった。


 一方の教育課程を修了し、もう一方へ入学するという、妥協案も頭によぎったが、この両親のことだ。最初に入る学校で、互いの優劣を決めたがるに違いない。


 実際にそれを成し遂げた者はおらず、仮にシロンが実行し、やり遂げたならば、世間の話題をかっさらうことは間違いないだろう。

 だが、いたずらに注目を集めることはしたくはない。善人ならまだいいが、悪人もすり寄って来られては面倒である。


 そして、あくまでも選ぶ権利はシロンにある。

 どちらに興味があるかと問われれば、迷わず魔法と答える。

 魔法の存在しない世界で暮らしていた前世の記憶もあるので、それは必然と言えた。


 何より、シロンのやりたいこと――夢を叶えるためには、魔法が必要不可欠であった。


「あのさ、父さん、母さん」


 勝者と敗者にくっきり明暗がついた両親が、同時に振り返ってくる。


「ちょっと、話したいことがあるんだけど」


 いつになく神妙な面持ちのシロンに、二人は何かを感じ取ってか、真面目な顔になってシロンの向かいのソファに並んで座る。


「話って、なんだ?」

「うん、実はさ――」


 ランドルフの問いかけに頷き、シロンは話を始めた。

 

 それはシロンにとっての決意表明であった。


 今朝、なぜか前世の記憶が蘇ったこと。

 その一生は不遇なものに終わってしまい、とても悔いが残っていること。


 その悔いを晴らすために、今、自分の抱いている夢を叶えたい。

 たどたどしい口調であったが、真剣に語った。


「「……」」


 二人は押し黙ってしまった。

 無理もない。にわかには信じられない内容である。


 無用な関心を集めないためにも、転生者であることは秘匿にすべきところである。

 告白に踏み切ったのは、やはり両親には自分の夢を応援してもらいたかったからだ。


 髪の色の違いからわかるように、シロンと両親たちとの間に血のつながりはない。

 生活苦からか、森の入口に捨てられていた赤ん坊のシロンを、ランドルフが見つけたそうだ。

 

 たとえ、血のつながりはなくとも、固い親子の絆はある。

 森の外を知らないシロンにとっては、唯一の絆である。


 そんな二人には、是非とも夢を応援してもらいたい。

 その熱意を理解してもらうために、包み隠さず話したのである。


 しかし、それは失敗したようである。


「ごめん、こんな突拍子もない話をして……でも、僕は父さんと母さんに育ててもらったことは、すごく感謝してる。ありがとう。この恩は一生、いや来世でも忘れないよ」

 

 紛れもない本心だ。シロンはゆっくりとだが、しっかりと頭を下げた。


 すると、鼻をすする音が重なって聞こえてくる。

 「え?」と思ったシロンが頭を上げると、ランドルフとエリルが滝のように涙を流し、鼻水を垂らしている。


「ちょ、二人ともっ!?」


 驚いたシロンが声を上げるのも構わず、二人はテーブルを飛び越えて、シロンに抱きついてきた。


「うぅ! あんなに小さかったシロンが、こんなに立派になってぇっ!」

「シロン、俺は今、猛烈に感動している……!」

「く、くるしいよ、二人とも……」


 シロンは懇願するも、二人は抱きしめる手を緩めない。


「あなたが何者であっても、私達の子どもよ!」

「ああ、シロンは俺たちの自慢の息子だ!」

「……ありがとう」


 自分を受け入れてくれた二人に対し、シロンは心の底から感謝し、涙した。 

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