第47話 倒置法まで使って否定


帰りの支度をしてホテルのロビーに集合した。売店で買ったジャーキーは、2人にあげてしまったのでもう一度買いなおす。試食品を食べたら美味しかった。昨日は美味しかったりまずかったりで、もう本当に訳わかんないよ。とりあえず6袋買ったぜ。

それと一緒にサンドウィッチとゆで卵、ドリンクを2セット購入。ゆで卵美味いよね。

エレベータで彩奈と恵が降りてきたので、先ほど買ったサンドウィッチSETを渡す。

「朝食買っておいた。バスで食べな」

「千秋、気が利くわね」

「ありがとう。大好きなゆで卵まであるー」

恵も調子を取り戻したようだ。目は腫れぼったいけどな。

俺も自分のクラスのバスに乗り込む。今井さんの隣に座った。またポッキーゲームされると困るので、すぐに目を閉じて眠る。本当にキスしちゃったら恵に顔向けできないし。


空港に着いた俺たち。飛行機に搭乗するまであと1時間半位ある。

沖縄でのお土産に買い忘れがあったことに気づいた俺はお土産屋に来ている。

店内を見回すと片隅に置かれた例のやつを発見。あったぁ。

沖縄で見かける伝説の獣”シーサー”だ。買い忘れてたんだよなぁ。

小さいのから大きいのまで色々な種類がある。リアル志向やデフォルメされた可愛らしいやつ。陶器や木彫り、ぬいぐるみまである。

置く場所は自分の机の上だから小さいやつがいいな。陶器で色付き。リアル志向のかっこいいやつ。うん、これだ。

「うわっ、値段すごいな」

手のひらサイズなのに9800円。ダメだこんなの買えない。よく見るとどれもすごい値段だな。

「千秋、何見てるの」

後ろからいきなりくっつかれてびっくりした。振り返らなくても声でわかる。

「机の上に置くシーサーを買おうと思ったんだけど、値段がすごいんだよ。万超えが普通になってる」

振り返りながら恵に話しかける。恵も値段をみて驚いてた。

「安くて俺好みの造形だと、この1800円のやつか」

うん、これにしておこう。

「千秋はそれ買うの?じゃぁ、あたしも同じの買う。お揃い」

「お揃いか。じゃ、これ3つ買ってくる。俺からのプレゼントってことで」

店員さんに会計をお願いする。

恵は自分の分は払うと言うが、いいよいいよで押し切った。

「はい、彩奈に記念のお土産」

店の外で待っていた彩奈にも同じシーサーを渡す。

「これ、3人でお揃いだから。机の上にでも置いてよ。見れば今回の修学旅行を思い出せるように」

「泣き顔の千秋を思い出すわ」

「それだけは勘弁してください」

「普段かっこいい千秋の泣き顔だもん。絶対に忘れないわ。とっても可愛かったから」

可愛いって……恥ずかしい。


空港の待合スペースで3人並んで椅子に座る。

修学旅行の思い出話で盛り上がってる俺たち。両側を美少女に挟まれる俺に、嫉妬の視線が心地よい。絶対に2人は手放さないからな。

待合スペースの大きなTVではニュースが流れていた。

”衆参両院で重婚が可決されました””公布後、施行されるのは1年後を予定”

それを見ていた俺たちは、

「法律が変わるな。もう少しで3人一緒になれる」

「まだまだこれからよ。千秋が認められなければ結婚はできないわ。収入は問題ないでしょ。あなた今も結構稼いでるでしょ。あとは千秋自身の審査ね」

「俺の審査ったなんだろう。ちゃんと2人を養い、平等に愛することができるかって感じ?」

詳しくはわからないが頑張るしかない。今のペースでいけば収入は大丈夫だろう。ってゆーか現在の給料も結構ヤバイ。普通の社会人がどの位の給料か知らないけどな。

「あと少しで俺たちの目標が一つ叶うな。付き合って、結婚して、子供授かって、マイホーム買って、子供授かって、子供授かって、子供授かって、子供授かって、みんなに看取られて逝く」

「ちょっと、どれだけ子供授かりたいのよ」

彩奈は嬉しそうな顔で俺に文句をつける。

恵は俺に寄り掛かるようにしながら呟く。

「何年も先になると思っていたけど、随分早くきまったね。まだ3~4年は先って考えてた。そうしたら一緒になれる」

「あぁ、一緒になれる。ただその前に、恵の両親に報告しなくちゃ。マジで怖いんだけど」

「パパとママなら千秋と一緒になることは何も言わないと思う。ママなんてもうすでにその気だから」

ずっと一緒だったからな。

「とりあえず俺は突っ走るよ。誰にも文句を言わせないように」


帰りの飛行機内。今井さんと河合さんに挟まれて座っている。ずっと寝てるふりはできそうにない。

ポッキーを取り出したらトイレ行ったり、周りをまきこみつつ誤魔化そう。肉食系女子恐るべし。俺の対する遠慮込みでこの態度。竹田君とか食われてるんじゃないかな。怖い。

なんとか羽田空港に到着。ふぅ。

バスで学校に戻り解散。疲れたけどいいもいでになった。彩奈や恵との絆も深まったことだし。

班のみんなにありがとうの挨拶をして、最後に班の記念写真を撮った。

彩奈と恵は俺が戻るのを待っててくれたみたい。

「お待たせ。帰ろうか」

3人連れ添って帰る。彩奈は途中までだけどね。

「修学旅行って意外といいものね。中学のときは本当につまらなかったわ。親友や恋人がいるとこうも違うなんてね」

彩奈も満足だったみたいだな。

「あたしも泣いちゃったりしたけど、最終的にはよかった。前よりもっともっと千秋が好きになった」

笑顔を見せながら、恥ずかしそうに恵は言った。

「愚かな自分に気がつかせてもらった。彩奈と恵には感謝してる。でも後悔はしない。これまで以上に2人を幸せにするって思ったから」

絶対に離れないし離さないからな。

何故かいい雰囲気になる俺たち。

しかし、帰ろうとした俺たちに声がかかる。この声、もしやっ!

はい、さわやか君でした。

「新田さん、話がしたいんだ。お願いだから時間をくれないか」

俺と彩奈は顔を見合わせる。前より絆を深めたって、話をしていたタイミングでの、さわやか君登場。狙ってるのか?

「昨晩はすまなかった。自分を抑えきれなかったんだ」

恵は、彩奈と俺にちょっと待っててと言って、さわやか君に向き直る。

「すいません。昨晩の事は誤解を与えた私も悪かったです。私には好きな人がいます。あなたはクラスメイトですが、それ以上の関係になることは絶対にないんです。もう私には構わないでください」

さわやか君に頭を下げた。

「そんな、僕は本当に君を思ってるんだ。最初は友達からでも、時間をかけて仲良くなれるかもしれないだろ?僕にチャンスをくれないか」

「チャンスはないですよ。恋人でもない女性に抱き着き、無理やりキスを迫る人なんて、絶対に信用できません。むしろ生理的に無理です」

さわやか君は悔しそうだ。

「新田さんはそこにいる男性が好きなのかな」

俺を横目で見ながらさわやか君は言った。

「好きですよ。好きという言葉で収まらないくらい大好きです。私は彼のすべてを愛してますから」

さわやか君、黙り込む。

「好意を持ってくれたことは嬉しいです。でも私からあなたに好意を持つことはありません。絶対に」

倒置法まで使って否定したっ!さわやか君は、涙目になりながら帰っていった。

「もうこれで安心だよ。吉岡くんはあたしに声を掛けない」

あぁ、さわやか君は吉岡って名前なのか。今知ったよ。

「さぁ、帰ろー!」

恵は鞄を持ってる反対の腕を俺に絡ませてきた。すっきりした顔でな。

こうして俺たちの修学旅行は終わった。



~新田恵~

修学旅行中に私たち関係を揺るがす大事件があった。

違うクラスになってしまった千秋だけど、修学旅行中も体を重ね愛し合っていた。

千秋に触れれば触れるほど好きになる。愛されれば愛されるほど愛しくなる。これが千秋。おそろしい子。

修学旅行3日目に事件は起きた。

国際通りで買い物を終え、ホテルに戻ってきた。

夕食までの時間でホテル内をお散歩しているときに、吉岡くんに声を掛けられた。彼はクラスでも人気のある、さわやかな感じの男の子だ。

吉岡くんは私のことが好きみたい。でも私には千秋がいるからノーサンキュー。

あなたはクラスメイトより上になることはないんだから。

そんな事を考えていたら、吉岡くんに抱きしめられた。

一瞬のことで私もビックリ。だって彼はそんな事をするタイプじゃないし。

頭の中が真っ白になって考えが止まる。彼はそれをOKと受け取ったのか顔を近づけてきた。

嫌だ。顔を背ける。そして顔を背けた先にいる千秋と目が合った。

うそ

踵を返し去っていく千秋。待って、違う、違うの。

私に抱き着いている男を振り払う。千秋が去っていったほうに走り出す。どこ、どこにいるの?

千秋のスマホに連絡をしても応答なし。何回コールしても電話に出ない。ラインでメッセージを送っても既読がつかない。

頭の中がパニックになった。千秋の部屋に行っても誰もいない。ホテルの中を探しても見つからない。

夕食の時間には戻ってくるかと、バイキングの会場で待っていたけど千秋はこない。

あたしは部屋で1人泣いていた。ごめんなさいごめんなさい。あたしは千秋が好きなの。他の誰でもなく、千秋が好きなの。

完全に誤解された。気を緩めていた自分に腹が立つ。抱きしめられたら、すぐに払いのければよかった。そもそも話をしなければよかった。

「千秋、千秋、千秋」

私は泣き続けるしかなかった。

彩奈に状況を聞かれたので、泣きながら話をした。彩奈が千秋に連絡をするけどつながらない。

千秋は怒っている。捨てられたくない。嫌いにならないでほしい。

涙が止まらない。少しおさまっても千秋のことを考えると、また涙があふれる。

ダメ、もう何も考えられない。千秋、千秋。あたしを抱きしめて。ぎゅっとして。お願い。

彩奈の連絡が千秋につながった。千秋は怒っている。どうしよう。

吉岡くんに抱きしめられて、逃げないあたしに嫌悪しているだ。

違うよ。とっさに体が動かなかったんだよ。千秋以外で好きな人なんていないよ。

千秋、ねぇ、話をきいて。誤解させたことは謝る。だから話を聞いて。

あたしは千秋のことをずっと考えていた。考えては泣いて、考えては泣いて。

気がつけば朝になっていた。

彩奈に、ご飯を食べないと体力が持たないと言われた。でも、食べる気にならない。

千秋のこと以外は考えたくない。千秋、お願いだよ。私を抱きしめてよ。

ぎゅってしてほしいよ。千秋がいなくなるのは嫌だよ。


部屋のドアが開いて人の気配がした。彩奈が戻ってきたみたい。

どうすれば千秋に会えるの。ふと、顔を上げると千秋が立っていた。

千秋、本当に千秋なの。

あたしは千秋に抱き着く。暖かい。本当に千秋だ。

千秋、千秋、千秋……。

キスをされた。涙があふれてくる。さっきまでの悲しい涙じゃなくて嬉しさの涙。

もう離さない。抱きしめられる暖かさ。離れたくないよ。

千秋に謝られたけど、悪いのはあたし。ごめんなさい。

好き、好き、大好きなの。

千秋はあたしが落ち着くまで抱きしめてくれた。

仲直りできてよかった。


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