第46話 ミミガージャーキー
修学旅行(最終日)
腹が減って目が覚めた。時計を見ると朝5時。
とりあえず水を飲み、机の上にあったジャーキーを食う。
竹田君は寝ている。いつの間に帰ってきたんだろう。
とりあえずシャワーを浴びてさっぱりする。散歩でもするかぁ。
部屋をでてホテル周りを一周。もう日が出て明るい。気温は涼しくて散歩には丁度いい。朝の空気が気持ちいい。
ホテルの前の海岸にきた。こんな時間だ、当然誰もいない。
海辺に座り昨日のことを考えてしまう。突然のことに驚き固まってしまった恵。それは理解した。そういう状況もあるだろう。俺はそれを許容したと恵に言った。冷静になって考えればわかる。多分俺が間違ってるのだろう。いや、間違ってるのなんて最初から知ってる。悲劇の自分に酔っていたんだ。
でも、でもだ。もうなんか全部が嫌になったのも事実。考えるのを放棄したんだろうな。もう別れてもいいって。色々と考えてつらい思いするなら、なかったことにすればいいって。そして今もそう思ってる俺がいる。どこまでクソなんだ俺は。
情けねーな。でも今更戻るのは無理かな。恵を傷つけてしまった。彩奈に謝んなきゃ。彩奈にも嫌われるかも。それでもいいか。もう考えるの面倒になってきたよ。
悲劇に酔ってる自分と、間違ってるのに気がついてる自分。考えるのを放棄した自分。総合的にみるとクソでした。
ふと時間をみると6時半になる。部屋に戻って朝飯食うか。ミミガージャーキーじゃ腹の足しにならない。
部屋に戻ると竹田君が起きていた。
「昨日は楽しまなかったんですね」
と言われたので、
「もう楽しむのはこりごりです」
と返事をした。
7時になったので飯を食いに行った。
腹は減ってるのに飯の味がいまいち。多分、何食ってもこんなもんなんだろう。
朝食を終えて部屋に戻ると、部屋の前に彩奈がいた。
話がしたいからというので、ホテルの非常階段に座って話ことにした。
「恵はまだ泣き続けてるわよ」
彩奈には迷惑かけて悪いと思っている。
「一度話をちゃんとして」
話してもなぁ。俺って思っていたよりメンタル弱かったんだよ。もうどうでもよくなっちゃって。
「じゃぁ恵と別れるの?」
そうだな。そのほうがお互いの為だと思う。恵も思い出すたびに、嫌な気持ちになるだろ?
「そんなに簡単に別れられるの?好きだったんでしょ?愛してたんでしょ?」
うん、愛してた。だからよけいにショックだった。冷静に考えれば恵の言い分もわかる。でも考えれば考えるほどダメだ。恵が悪いんじゃないよ。俺がバカでめんどくさい男なんだよ。彩奈も俺のこと嫌になっただろ?
「千秋は悲劇のヒロインにでもなったつもりなの?自分一人で考えて、自分一人で完結してるじゃない。悲劇のヒロインを気取らないで」
ああ、そうだな。そう言われるとぐうの音も出ない。
「私はあなたが好き。愛している。それは恵も同じ。納得できないし、納得する気もない。私は私の考えで千秋と恵と一緒にいるの」
俺の顔を両手で挟みキスをされた。
「千秋がおかしくなったら、私と恵がなんとかする。私がおかしくなったら千秋と恵が元に戻して。私たちは3人つながってるのよ」
深く長いキスをされた。何回も何回も。
「ほら、涙を拭きなさい。ちゃんと恵の話を聞いてあげて。あの子は千秋に見限られたってずっと泣いてるの。自分はどうなってもいいから、千秋の心は壊れませんようにって」
ほら、泣き止んで。彩奈に包み込まれるように抱きしめられる。
「俺、まだ好きでいいのかな」
「いいんだよ」
「こんなに面倒な男って呆れられないかな」
「そんなの知ってるわ。付き合いの長い恵なら言わなくても分かるでしょうに」
涙がとまらない。
しばらくの間、彩奈に抱きしめてもらっていた。
「もう、食事の時間終わっちゃったわ。朝ごはんどうしよかしら」
「俺のミミガージャーキーやる」
「それは美味しいのかしら」
「買った時の試食は美味しかった。昨日の夜食べたときはクソまずかった。多分、精神的にやられてたから。今食べたら美味しいと思う」
俺と彩奈は非常階段をあとにする。恵にちゃんと謝らなくちゃいけない。
俺の部屋によってジャーキーを取って恵の元に向かう。
「あら、このジャーキー美味しいわよ」
「ロビー横の売店で売ってるよ」
「あとで買うわ」
彩奈に部屋のドアを開けてもらった。ベッドの上で泣いている恵がいる。
俺に気づいた恵が飛んできた。
「千秋、千秋、千秋……」
恵の頭を撫でなでる。
「ごめんな恵。バカな男で。お前を傷つけた」
「違う、違うの。私が悪いの。全部私のせいなの」
また、大声で泣きだす恵。
「全部分かってる」
と、恵にキスをする。優しく啄むように何回も。
「千秋~」
「俺は恵が好きなんだ。だから嫉妬したんだよ。ゴメン、情けない男でゴメン」
ゆっくりと深くキスをした。舌を絡める柔らかくて甘いキスを。頭をそっと撫でながら恵に伝える。俺もポロポロと泣いている。
「バカな俺だけど一緒に居てくれるか?」
「いる、一緒にいる。ずっと一緒」
俺の胸に顔をうずめる恵。ゆっくりと背中をさすって落ち着かせる。
「いい雰囲気なのはわかるけど帰る支度するわよ。集合時間まで1時間切ってるから」
彩奈の言葉で我に返る。
「あとでたっぷり話をしよう。今は急いで準備だ」
「うん」
恵はシャワーを浴びにユニットバスに向かった。
「じゃ、また後で」
「ええ」
「彩奈、ありがとう」
俺は自分の部屋に戻った。
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