第40話 バレンタインデー

2月某日。

登校すると朝から女の子たちに囲まれた。

「「「はい、上原君にチョコレート」」」

そう、今日はバレンタインデーである。去年まではもらっても5~6個だったけど、今年は教室に着く前に10個超えた。

教室に着くと敏彦が出迎えてくれた。

「お、千秋きたか。お前チョコ凄いな。あれ見てみろよ」

俺の席にはタワーができていた。チョコの。

「うわ、たしかにこれはすごい」

これお返し大変だなぁ。

その間にも他のクラスの女の子や、1年や3年の女の子もきてチョコの山は増えていく。

騒ぎは先生がくるまで続いた。

普通はこんなにチョコが集中すると、男子からは総スカンされそうだけど、歌手兼モデルということで仕方ないと見られてるようだ。

それでも多少は、

「〇〇ちゃんのチョコが」「××ちゃん狙ってたのに」

との声が聞こえてくる。〇〇ちゃんも××ちゃんもわからないよ。


結局、放課後まで休み時間になるたびにチョコが増えていった。

うーん、こんなに持てない。だけど置いて帰るのも失礼だし。

「タクシー呼んだら?」

恵に言われてタクシーを呼ぶことにした。紙袋で3袋と段ボール1箱あるよ。さらに校門には他校の女の子もいる。

本当は家の近い恵に、運ぶの手伝ってもらいたかったけどやめておいた。

「あたしがついて行ったら恨まれそう。なんだあの女!ってね」

たしかにその可能性はある。

1人タクシーに乗って帰りました。最終的には紙袋で3袋と段ボール2箱です。これどうしよ。

あれ、肝心な彩奈と恵にもらってない!別の日かなぁ。なかったら少しショックかも。少しじゃない、めちゃくちゃショックだよ。

一度、家でチョコを下ろした後に事務所に向かう。こんな日もレッスンです。


「待ってたよ、千秋」

事務所には彩奈がいた。

「学校では渡せなかったけど。はい、チョコレート。頑張って恵と作ったの」

あぁ、よかった。彩奈から貰えた。恵と一緒に作ったってことは、恵からも貰えそう。

「ありがとう。とっても嬉しい。大事にする。飾っておく」

彩奈は事務所の隅にある段ボールを指さして、

「あのチョコも千秋のよ」

事務所の隅には段ボールがたくさん積んである。段ボールごとに男性モデルの名前が書いてある。俺の名前もあった。しかも6箱。

そのタイミングで事務所の奥から西野さんがきた。

「あ、上原君。これファンから送られてきたチョコね。手紙類は分けてあるから渡すね。チョコはもったいないけど廃棄だから。知らない人からの送られてきた食べ物はね。しょうがないのよ」

たしかにそうだ。ファンの振りをした刺客に毒殺されるかもしれない。

「人気も上々だね。このペースでガンガンいくよ。次は春のイベント、夏はライブがあるからね。他にも細かい販促やTV関連もあるから」

はは、忙しくなりそうだな。

「千秋に負けないように私も頑張るわ。今度、若い子向けの化粧品のCM撮るの。あと、また映画ね。西野さんが頑張って仕事をとってきてくれたの」

西野さんは有能すぎる。

それから2時間ほどレッスンをし帰宅した。

恵から帰宅時間を教えてくれとラインがきてたので、これから家に帰りますと返信しておいた。

家に帰ってすぐに恵が訪ねてきた。

「はい、チョコレートだよ」

貰えた。やったね。

「彩奈と作ったんだ。よーく、味わって食べてね。愛情いっぱいだから甘いぞ~」

甘いか~、そうか~。でも、もっと甘い恵や彩奈が食べたいぞ。

「いつでも食べさせてあげるから今日はチョコで我慢だよ」

しょうがない、我慢我慢。キスはいいよね?

玄関でしばらくキスを味わう。んー、甘い。

「じゃ、また学校で」

恵は自転車で帰っていった。


「お兄ちゃん、私も恵ちゃんにチョコ貰っちゃった。あと彩奈さんからもあったよ。恵ちゃんが持ってきてくれたんだ。ホワイトデーに何返そうかな~」

千尋はご機嫌である。

「あと、この玄関にあるたくさんのチョコはどうするの?」

玄関に山のように積まれたチョコどうするかなぁ。クラスの子や知ってる子から貰ったチョコは食べてもいいけど、全然知らない人のチョコは怖いよな。

「手紙は残して知らないチョコは処分する。なんか怖いから」

千尋に分別の手伝いをしてもらった。当然、バイト代を請求された。



ある日の事務所。

今までCDショップの販促は何回も行った。次の販促方法は少し変更となる。

今まではCDショップの片隅にある販促コーナーに立って、CDを手売りしていたけど、最近はファンが多くなってきたので変更された。

手売りはしなくなり、買ってくれた人向けにホールを借りて歌う。チケットは抽選方式。CDに抽選券を同梱するやり方。

日本全国は行けないから、関東近郊で土日×2週の計4回のミニライブだ。しかも、現地でグッズを5000円以上購入すると握手できるという、怖い仕様だ。

ミニライブといっても、クリスマスライブの1000人規模より大きめの1500人規模のホール。つまり満員になれば、アルバムが6000枚売れたことになるな。

「上島君、私も気合入れて準備するから。あなたも気合いれなさい」

「もちろん頑張ります」

今回のミニライブに向けて西野さんはもう一つの仕掛けをしていた。

「千秋、一緒に頑張ろね」

そう彩奈も参加である。

俺のライブのメイン層は女性10代~40代が一番多い。ライブ時にゲスト出演した彩奈が化粧品の宣伝をするのだ。もちろん俺の曲は化粧品のタイアップ曲になっている。

販促コーナーには化粧品も置く。この化粧品を使い、彩奈のように綺麗になろう。っというのが西野さんの作戦らしい。

彩奈が一人で宣伝しても十分に売れると思うがな。

西野さんが化粧品会社の担当に話をしたら、相手の担当さんがノリノリだったらしい。宣伝のステージをそのまま使えるので場所代も浮くしね。

最低限の費用で若い世代に化粧品をアピールし、自分たちの会社の化粧品を使ってもらう作戦らしい。

しかも彩奈のギャラは化粧品会社持ちときたもんだ。西野さん、やり手すぎる。色々と考えるもんだと思った。


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