第27話 なんで泣いてる
~新田恵~
久しぶりに千秋の部屋に来た。
この雰囲気、部屋の匂い変わってない。ただ机の上に過去なかった写真がある。
千秋と彩奈ちゃんの仲良さそうな写真。
「二人は付き合ってるんだよね」
その写真をみると何故か涙が目からこぼれる。ダメだ、泣いちゃだめだ。そう自分に言い聞かせる。
足音が近づいてきたので、そっと涙を拭う。そしていつもの笑顔を作る。
「おー、恵は麦茶でいいか?ってか麦茶しかない」
千秋はコップに入れた麦茶とポテチを持ってきてくれた。
「麦茶さんきゅー。うわーい、ポテチもある」
冷たい麦茶を飲みながら千秋と話す。
「それで?スペシャルなプレゼントとは何かな?楽しみMAXなんですが」
「おぅ、お前の好きな人の関係だ」
好きな人は千秋。あなただよ。
「えー、わかんなーい。彩奈ちゃんの写真集?」
「それは俺のほうが欲しい」
千秋は棚にあった薄い何かを持ってきた。
「お前、前に好きだって言ってた女性歌手いたろ。その人とTV番組で会ったんだよ。恵が喜ぶと思ってサインお願いしちゃった」
そんなこと覚えてくれてたんだ。
「マジで。すげー、あたしにくれるの?」
こんなあたしの為に。涙が……。
「あ、りが、とう」
だめ、泣いちゃダメ。
「おい、どうした?感動したか?感動してるな。わっはっはっ、俺を崇めろ」
もう……我慢できない。
私は千秋を抱きつきながらベッドに押し倒した。
「好き」
顔は見られたくない。涙は見られたくない。惨めな思いはしたくない。
「おい、そんなに感動したのか?まぁ、すげーファンって言ってたもんな」
好き、好きっ。
「おいちょっと感動しすぎ。お前のおっぱいは気持ちいいけどさー」
「ばか。でも嬉しいからサービス。触ってもいい」
「触ったら止まらなくなるだろ。おーい、苦しいぞ助けて」
私は少し動いて千秋の首に抱き着いている。千秋の肩に顔をのせて泣き顔は見られないように。
「本当にばっかだな。俺とお前の仲だろ。こんなの普通だろ。何年幼馴染してるんだよ」
もっと欲しい。千秋が欲しい。
「んっ、、、」
私は千秋にキスをした。ムードもなく、押し付けるような乱暴なキス。
「……おい、どうした」
「サービス」
「ありがとうございます」
「いい」
千秋にギュッと抱きついて離れない。
もうだめだ。涙が止まらない。
「どうした。お前なんかあったのか」
「ない」
「なんで泣いてる」
千秋が好きだからに決まってるでしょ。
「目をつぶってて。顔見られたくない」
お前なー、と言いつつも千秋は目を瞑ってくれた。
急いで荷物をまとめて帰り支度をする。
「サインありがとう。大事にする」
もう一度だけ千秋の唇に優しくキスをして部屋を出た。
どうしたんだ、あいつ。
サインに喜んでいるのは理解できるが、キスまでするか?
昔なら頬にキスをされた事はあったが、唇にされたのは初めてだ。
しかも泣いていた。
彩奈に相談したほうがいいな。俺はスマホを取り出した。
電話はすぐにつながる。恵がおかしかった事を説明するが、うまく説明できない。
「とりあえず明日学校でもう一度詳細を教えて。恵にはいつも通りに接すればいいから」
「彩奈は今の説明でなんかわかったのか?」
「なんとなくね。とにかく明日に話を聞くわ」
俺は心の中がもやもやした状態で明日を迎えることになる。
翌日。
恵は休んでいた。
彩奈が恵に連絡をしたが、体調不良で休むとだけ言っていたと。
「なぁ、俺の知らないところで何かあったのか?」
「千秋も関係する話よ。学校で話す事じゃないから、帰りにどこか落ち着く場所で話しましょう」
俺?何かやっちゃったのか?
とにかく放課後に話をしよう。
放課後。
駅のそばの喫茶店に入って彩奈と話をする。昨日の出来事を順を追って説明する。
「あの女性歌手のサインを恵にあげたんだよ。前に好きだって言ってたから。ありがとう嬉しいって言ってから、何かおかしくなったんだよな」
「千秋はわからない?」
「うん、さっぱり」
怒ってはいなかった。嬉しすぎて感極まった?
「あと、彩奈に謝らなきゃいけないことがある。恵がおかしくなった時に、いきなりキスされた」
「キス?」
「ありがとうのキス。最初ほっぺに。その後は唇に。でも、疚しい事はしてない。信じてほしい」
いきなりだったからビックリして固まっちゃったんだよ。
「別にそれはいい。いや、よくないけど相手が恵ならいい。知らない女だったら許さない」
彩奈は怒ってはないようだな。
「でも何となくわかった。多分いずれはこうなってた。遅いか早いか」
「彩奈はわかったの?」
「ええ、一つ答えて。もし私と知り合ってなくて、恵とは今と同じような生活をしてたら、千秋は恵を愛してる?」
彩奈と知り合いじゃなくて今の状態か。それはイエスだな。俺は恵を大好きだったし、今も好きだ。
「結婚してもいい位?」
いや、彩奈と一緒になりたい。あ、はい。彩奈がいなかったらね。うん、結婚してもいい位好きだったと思う。
「千秋はよく分かってないからはっきり言うね。恵は千秋の事が大好きよ。友達の好きじゃなくて、私と同じで千秋を愛してる」
「だってそんな素振り見せたことないぞ」
「結構色々な表現してたと思うよ。あの子は男子とも分け隔てなく友情関係を結ぶけど、ちゃんと一線は引いている。千秋以外にはね」
俺には?
「あなた以外の男子には、手もつながないし体も触らせないでしょ。なのに千秋にはおっぱい触らせたり、抱き着いたりする」
たしかに抱き着くし、いきなりおんぶと言って飛び乗ってくるし、手を取られておっぱいにあてがったりされたけど。
「私と付き合うようになってから、ふと千秋をみる寂しそうな顔を私は知ってる」
全然、気がつかなかった。
「あの子はね、ずっと好きだった千秋が、自分から離れていくことに耐え切れなくなったの」
でも、どうすればいいんだ?俺は彩奈の彼氏だ。恵は大好きだけど1番じゃない。
「千秋は私のもの。でも、恵も愛することができる?」
そんなこと言われても困る。彩奈は当然幸せにしたい。いや、俺が幸せにする。
でも、恵は?確かに恵は好きだ。彩奈の存在しない世界線だったら恵を大事にしていると思う。
「ねぇ、想像してみて。恵が一人で泣いてる姿を」
それは嫌だ。俺にできることはなんでもする。あいつには幸せになって貰いたいから。
「結局、千秋も恵が好きなのよ。愛しているの」
「そんな。俺が愛してるのは彩奈だよ」
「それはわかってる。安西彩奈を100愛してるなら、新田恵は90愛してるの。どっちも高得点よ。すけこまし」
でも俺には一人しか幸せにすることができない。俺にはどうすることもできない。
恵とずっと一緒にいたい気持ちはある。でも彩奈とも一緒にいたい。俺はすでに彩奈を選んでいるんだ。
「勘違いしてほしくないのは、私は千秋にも恵にも怒ってない。むしろ自分の事が嫌な位よ」
ん?何で彩奈が自分を嫌になるの?
「とりあえず今回の件はすべて理解したわ。色々な出来事が重なって恵は疲れているの、まともに考える事ができない位に」
でもどうすれば。
「とりあえず私は今から恵に会いに行くから。千秋は一人で帰って」
俺も行ったほうがいいんじゃない?
「話しがこんがらがってしまうからダメ。私一人で行きます」
彩奈は恵に今から大事な話をしに行くとメッセージを送った。
そして俺は家に帰らされた。
話し合いの結果はちゃんと説明するから、俺からは聞くなと念を押された。はい。
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