第28話 ベストではないけどベター
~安西彩奈~
ついにこの時が来た。
私の考えは、千秋と恵の3人で幸せになる事。
恵が納得するかしら。いや、納得させるんだ。
千秋と別れてタクシーで恵の家まで来た。現在の時刻は18時。ちょっと半端な時間だけどしょうがない。話は長くなるだろう。私は飲み物と軽くつまめるものを買って、恵の家のインターホンを鳴らした。
恵の部屋で彼女と対峙する。その顔はいつもの美しさがなく、目の下には隈が見える。疲れ切ってすべてを諦めてるような表情。
「恵、あなたと話がしたくてお邪魔したわ」
「うん」
「はっきり言うわ。恵は千秋の事が好きなんでしょ?愛してるんでしょ?」
「ごめんなさい」
恵は下を向いて私に謝ってきた。多分、キスの事だろう。
「私は何も怒ってない。ちゃんと話を聞かせてほしい。あなたはどうしたいの?」
恵は子供の頃からの千秋の思い出をゆっくりと話し出した。涙を流しながら。
ハンカチを渡して恵に問う。
「千秋を愛してるの?その気持ちは諦められるものなの?」
「彩奈ちゃんの彼氏なのは知っている。わかっている。でも、千秋を好きな気持ちが止まらないの。止められないの」
「知ってるわ」
「彩奈ちゃんと楽しそうに話す千秋をみると心が苦しい。千秋の笑顔を見ると心が苦しい。私だけ別の世界にいるようで。今までのことなんてなかったように2人は先に進んで。私一人だけ取り残されてる気がして」
「私はあなたとずっと一緒にいたのよ。気がついていたわ」
「親友の彼氏を好きな自分が許せない。許せないってわかっていても、心の奥から好きがあふれてきちゃう。どうすればいいの」
「千秋を好きになったのは恵が最初。ずっと昔から好きだったんでしょ?」
恵は、私や千秋に申し訳ないと謝り続ける。
恵の横に移動して彼女を抱きしめる。
「ごめんね。恵につらい思いをさせちゃって」
「ううん、彩奈ちゃんや千秋は何も悪い事してないよ。悪いのは自分の気持ちを整理できないあたしなの。ダメなのはあたしなの」
「私は千秋が大好き。愛してるわ。でも、恵も大好きなの。初めてできた私の親友。私にこの世界の楽しさを色々と教えてくれた女の子。大事な大事な親友」
恵は大粒の涙をポロポロと流す。
「だからね。相談に来たの」
何の相談?と恵は顔を上げる。
「将来私は千秋との結婚を望んでいるの。一生を添い遂げたいと願っている」
恵は私の目をみて何が言いたいのか考えている。
「おそらくあと数年で日本も重婚が可能になるのよ?そうなったら恵だって千秋と一生を添い遂げる事ができるのよ」
恵の瞳に少し光が戻った。
「重婚には色々な条件をクリアしないとダメなの。扶養能力や収入。良い家庭環境の維持能力や世間からの信頼。私は千秋なら問題なくクリアすると思うわ」
「でも、あたしが望んでも千秋がそうでなければダメでしょ」
「千秋はね、安西彩奈を愛している。それと新田恵のことも愛しているの。これ本当のことよ」
浮気ではない。だって付き合っているのは私だけど、昔から愛情を注がれていたのは恵だから。
「だから提案します。一緒に千秋の妻になりませんか。千秋を一緒に愛して、一生添い遂げませんか?」
「彩奈ちゃんはそれでいいの?自分だけの千秋じゃなくなるんだよ?」
ベストではないけどベターなのだ。
「千秋は今後歌手として大成すると思う。その時に私はいつも一緒いられない。お互いに仕事があるからね。千秋はきっと女の子がわんさかと言い寄ってくるわ。恵だったら許せるけど、知らない女だったら狂いそうになる。それだったら最初から、2人を愛してもらったほうが私も安心できる。私が仕事でいないときの千秋を、任せることができる」
これは私なりの打算だ。千秋はきっと有名になり悪い虫がたくさん来るだろう。恵だったら千秋を守ってくれる。心許せる恵だからこそ千秋を共有できる。
「共有っていいかた悪いけどね。彼はきっと私と恵を同じように愛してくれる。彼の性格を知ってるでしょ。彼は絶対に妻に優劣をつけない」
恵はここで泣き崩れた。悲しい涙じゃなくて嬉しい涙だ。
「あとは私たちがしっかり手綱を握るのよ。今回の件も千秋は納得すると思う。むしろ喜ぶわ。だって綺麗な妻が2人になるんだもん。2倍よ」
私は恵と話し合った。お互いの思いを全部吐き出す。
親友と彼氏どっちが大事?どっちも大事に決まっているから。
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